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海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第4回台湾で売る(2):台湾で「グローバルニッチ」を探せ!国際化による「下請け」からの脱却 「講義録(要旨)」(2022年12月6日)
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'海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第4回

台湾で「グローバルニッチ」を探せ!国際化による「下請け」からの脱却 (講義録)



今回は第4回として、「グローバルニッチ」をテーマに台湾への売り込みについてお話ししたいと思います。台湾の半導体や電子製品などを代表とした台湾製造業、こういった産業の量産規模は非常に大きく、また「縁の下の力持ち」として多くの日本企業が関わっています。御社の技術力を生かしてそういった業界に関わるにはどうしたらよいのか考えていきます。


最近の台湾


最近の台湾については第1~3回でも解説しておりますので、よろしければそちらを見ていただければと思います。


https://www.idec.or.jp/topics/article.html?id=2775

https://www.idec.or.jp/topics/article.html?id=2794

https://www.idec.or.jp/topics/article.html?id=2803



台湾への渡航制限については2022年10月13日に事実上解除されました。現地での行動も自由になっていますが、マスクはつけ体調管理にも気を付けるようにしてください。また万一陽性だった場合は飛行機に乗れなくなる可能性があります。渡航の中止や台湾での滞在が伸びるなどの影響も考えられますので、その辺は柔軟に対応できるように準備をしてください。


三国志に学ぶ、なぜ中小企業の海外展開?



参加いただいている方は当然なぜ海外展開するかの理由はお持ちだと思いますが、三国志の故事を借りて整理したいと思います。


三国の一つである蜀漢の国では、北方にある大国・魏を討つかどうかで議論が起こりました。魏とは過去の経緯から和平などあり得ない不俱戴天の仇であったのですが、北伐、つまり北に攻め込むことには反対論が出たのです。歴史の話については検索してみていただきたいのですが、その時の反対派と宰相であった諸葛孔明とのやり取りを簡単にまとめると以下の通りとなります。


  • 蜀漢は国を運営していくには充分豊かであり、地形上防衛も容易、このまま自国に閉じこもっていたほうが良い。

  • 蜀漢と魏はいずれ統一をかけて争う運命にあり、ずっと自国に閉じこもっているのは一時の安泰を得るのみである。またこちらから攻めなくても、向こうからいずれは攻めてくる。攻めてくるのをひたすら待つくらいなら積極的に打って出て可能性を探るべきだ。


これを我々の状況に当てはめるとこうなります。


  • 日本市場の規模はそこそこ大きく、中小企業には十分に思える。しかし日本市場の規模に安住してはいけない。

  • こちらから出て行かなくても、外国企業が来る可能性がある。日本市場の規模は外国企業にとっても十分に魅力的。日本市場へのアクセスも容易なため、日本市場だけで商売しても、技術流出や模倣はあり得る時代。

  • 守るためにこそ、海外の動向を知るべき。大企業の量産ラインの海外移転、円安など日本市場だって海外と連動した様々な変化がある。


特に最近の急激な円安を体験すると、もし早めに海外展開をしていれば、むしろ自社の経営上プラスになっていたかもしれません。未来に何があるか予想ができないからこそ、今すぐにできるところから着手すべきだと思います。


「グローバルニッチトップ」とは?


中小企業が海外展開する上で参考になりそうなのが、経済産業省が定期的に選定している「グローバルニッチトップ」企業です。簡単に言えばニッチ分野における世界市場でのトップ企業ということであり、皆様も聞いたことはあるかと思います。


しかしなぜ経済産業省が「グローバルニッチトップ」を選定しているのかを御存じない方も多いのではないでしょうか?まず「グローバルニッチトップ」の定義やこういった概念が出てきた背景を説明したいと思います。


ドイツの輸出力の強さの理由「隠れたチャンピオン」と「グローバルニッチトップ」


まずドイツのハーマン・サイモン氏 (ドイツ語圏ではピーター・ドラッカーに次ぐ影響力のある経営思想家と言われる)が提唱した「隠れたチャンピオン (Hidden champions)」という概念が「グローバルニッチトップ」の前身です。


彼はドイツの輸出を支える企業の特徴として「隠れたチャンピオン (Hidden champions)」という概念を提示しました。定義は以下の通りです。


  • 比較的規模は小さい

  • 知名度は比較的低い

  • 特定の分野で世界、もしくは複数国を含んだ地域で非常に優れた実績・高い市場シェアを持つ


こういった「隠れたチャンピオン」が数多く存在することがドイツが強い輸出力を保っている理由の一つとされています。昔は円高で大騒ぎ、最近は円安でも大騒ぎの日本に比べ、ドイツは為替相場の変動でそこまで大騒ぎはしていない印象があります。また実際ドイツの輸出力はかなり強く、日本より人口が少ないのにもかかわらず、輸出額は倍近くあります。



もちろん2002年以降はユーロ成立で為替相場にあまり影響されない市場を確保したということもあるとは思います。しかしそれ以前は日本と同じくずっとマルク高に対応しなくてはいけない状況でした。でも2002年以前までもずっと輸出額を伸ばし続けてきたのです。


この「隠れたチャンピオン」を元に日本の経済産業省で考案されたのが「グローバルニッチトップ」というわけです。


「隠れたチャンピオン」の例


上記はごく一部であり、他にも色々な会社がありますが、必ずしも規模と世界展開が一致するわけではありません。


例えば「McIlhenny Company」は会社名よりも、取り扱っている辛味調味料の「タバスコ(TABASCO)」、正式名称は「タバスコペッパーソース」の方がはるかに有名です。操業時より米国ルイジアナ州エイブリー島に本社を置いていますが、従業員は200人ほどだそうです。


他の会社もそうですが、非常に分野を絞った商品・サービスを持っている会社ばかりです。規模が小さい分、あれこれ分野を広げるわけには行きません。しかし分野を絞った分、その技術やノウハウを色々な国に展開することで稼いでいくわけです。


横浜や神奈川県の「グローバルニッチトップ」の例


次に横浜や神奈川県の「グローバルニッチトップ」に選ばれた企業を見ていきましょう。



身近にある「グローバルニッチトップ」を見て、色々な感想を持ったと思います。


BtoBを手掛ける会社が多い


まずBtoBを手掛ける会社がほとんどです。やはり神奈川県や横浜の中小企業は大企業の下請けなどBtoBの取引で技術力を磨いてきた会社が多いと思います。そういったものを活かしたほうが海外展開を進めやすいのだと思います。


私も台湾で営業した経験上、日本でどうやっているのか・どうやっていたのか、という経験談は台湾でもとても求められることがあります。日本の大手企業の下請けの経験も、場所を変えると貴重な経験として重宝されることもあり得ると思います。


プロダクト化・水平展開の重要性


「グローバルニッチトップ」に選ばれている企業は主力の製品や強みなどが分かりやすいです。「グローバルニッチトップ」に選ばれているくらいですから、主力製品以外にも色々作れるし、それができる技術力もあるに違いありません。しかし特定の分野に絞っているわけです。


中小企業の場合、つい「何でもやります」というアピールをしてしまう人が多いのですが、これは必ずしも正しいとは言えません。何でもできますと言われて、白紙の状態から注文できる顧客は少ないですし、その企業に頼む理由が乏しいです。


仮にカスタマイズ可能だとしてもまずはそのベースとなる「標準」が無いといけません。この「標準」を作ることを「プロダクト化」と言います。製造業の場合は「プロダクト化」は目に見える現物を作ることと誤解されがちですが、そうではありません。


まず製品やサービスの仕様や内容が明確に定義されている必要があります。そうすることで購入前に値段とか購入する内容などが理解できるわけです。カスタマイズするとしてもベースとなる製品が明確に定義されていれば、どこをどう変えるかが分かりやすくなり、安心して注文することができるわけです。


次に仕様や内容が明確に定義されることで、毎回同じものを提供することで、ある製品を作るために獲得した技術やノウハウを「水平展開」して他の顧客にも売り込むことができます。


さらに自社も定義を明確にすることで、何を改善するのか、自社のプロダクトを改善する基準ができます。自社の中でもプロダクトの改善を進めやすくなるのです。


良さはアピールしないと通じない


例えば台湾の展示会に出展するとします。製品の仕様や内容が明確に定義されていないと営業や販促資料も整備できません。


営業や販促資料があれば、それを流用してブース説明員向けの研修資料を短時間で作成できるかと思います。こうすれば説明員は事前に資料を読んで予習し、資料に載っていないことのみに絞って日本側に質問するように変更することができます。


営業や販促資料が無いとブース訪問者からの質問は毎回通訳を通して日本側に確認するということになります。当然現場での手間と時間がかなり増えます。また一人とのやり取りで時間をかけている間に他の訪問者への対応がおろそかになるリスクも増えることになります。


営業や販促資料は製品写真だけ掲載すれば良いというわけではありません。とくにBtoBの製品などの場合、ブース訪問者も製品写真だけ見て理解できるわけではありません。製品の特徴や良さはある程度文字で説明しないといけません。


営業や販促資料が無ければ、そもそもブースでどういう展示をすればよいのか、どういう売り文句を看板やパンフレットに入れれば良いのか、など何をどう売り込めばよいのか手探りの状態になります。


海外展示会をチャンスにプロダクト化を加速


いきなり営業や販促資料を作れと言っても、今までない以上、そう簡単にできるものではありません。しかし海外展示会をそういったものを揃える良いチャンスにすることは可能です。


異国、異業界のひとでも自社製品の魅力を分かってもらえるように説明するにはどうしたらよいか、そもそもどういうキャッチコピーや売込文句がよいのだろうか、こういったところから「プロダクト化」について考えてみるのも悪くありません。


そもそも定義を変えることで同じ製品でも魅力が良く伝わって売れたりするようになったりもします。でもそれは展示会などで場数を踏み、ブース訪問者の反応などを反映しているからです。定義がなければ変えることすらままなりません。


ニッチを探すのではない


こうやってみてみると自社の強みを磨いた結果自然と「グローバルニッチトップ」や「隠れたチャンピオン」になっているのであり、ニッチを血眼になって探したわけではないと思います。ここは留意する必要があります。


台湾のIT産業・製造代行の強さ



ところで先ほどの輸出額ランキングのグラフをもう一回見てみましょう。16位の台湾もかなり輸出額が多いのが分かります。



IT製品や半導体を中心とする台湾の製造代行(EMS)企業は中国にも工場を持ち、大きな量産規模を誇っています。EMS売上ランキングを見ると1位のHon Hai (Foxconn)は日本円換算では兆単位の売り上げであり、いかに規模が大きいかお分かりいただけるかと思います。


台湾のIT産業の勢いを取り込む



こういった台湾の電子産業の勢いを上手く活用することを考えるなら、台湾展示会への出展は考慮すべきだと思います。例えば台湾IT関係の展示会で世界的にも注目されるComputex Taipeiという展示会があります。こうやって関係者が集まる場所に積極的に出ていくことで、ニーズなどが掴めるのです。



先ほどの写真の右上のブースに注目してください。指の動きを検出できるグローブを展示しているのですが、元々の製品は上の写真の様な曲げを検出できるセンサーなのです。でもグローブを前に出すことでブース近くを通る人の注目を集めることに成功していました。


ちなみに台湾の会社だって最初から上手く自社のアピールができるわけではありません。やはり何回か展示会に出ることで自社製品をどうアピールするのが有効か経験を積んでいるのです。


スタートアップの勢いを取り込む



最近は「スタートアップ」が注目されています。「スタートアップ」とは革新的な技術(テクノロジー)やアイデアを元に新しいビジネスモデルを作り(イノベーション)、急速な成長を目指す企業やプロジェクトのことを指します。


台湾の場合はIT産業が盛んな事もあって、独自のハードウェアを作るスタートアップも多いです。こういったスタートアップは革新的な技術やアイデアを売りにしているだけあって、製品も色々と面白いアイデアが含まれることが多いです。


こういったスタートアップに技術をそのまま、もしくは部品や製造代行の形で売り込むことによって、彼らの勢いを自社のビジネスに取り込むことができます。



台湾の製造代行(EMS)企業もスタートアップを取り込む動きを見せています。台湾の製造代行(EMS)企業も部品さえ調達できれば何でもできるでしょうが、やはり最終製品のアイデアに関してはスタートアップの革新的なアイデアを期待しているわけです。


ここで注目したいのは上の台湾中小EMSのサービスです。試作から量産、出荷までいくつかのステップがあることを示し、半田ごてで手作りで作るのと違って電子製品の安定した量産はそれなりの経験やノウハウが必要なことと、それをワンストップで支援できることを強調しています。単純に「何でもやります」ではないのです。


他にも様々な展示会が



台湾では他にも様々な業界・分野の展示会が行われています。上の写真は世界的にも注目される台湾の半導体関係の展示会、「Semicon Taiwan」です。こういった展示会には大企業だけが出るわけではありません。大学や中小企業なども出展しています。


台湾の展示会の使い方



こういった台湾の展示会ですが、出展する場合は「プロダクト化」、つまり自社製品そのもの、もしくはその売り込み方を磨くのに絶好の機会です。ある程度洗練されるまで複数回出展してみると良いと思います。


またその結果としての「営業」も重要です。のこのこ顧客に押し掛けるより、自社製品に興味を持ってもらえそうな潜在顧客により対等の立場でやり取りできます。


また視察して海外の競合他社を知るのも重要です。簡単に言えば「井の中の蛙」にならないようにするということですね。


最後に



最後になりますが、IDEC横浜では様々な台湾を含めた海外ビジネスに関するセミナー、支援を実施しています。また今回の内容も含め、全5回のセミナーは順次動画やウェブサイトで公開予定です。是非ご覧いただければと思います。


https://www.idec.or.jp/business/overseas/index.html


また本日のゲスト講師であった吉村さんは中小企業の海外進出を支援する「ASIA-NET」を主宰されています。こちらでも様々なセミナーが行われていますので、是非開催情報をご確認頂ければと思います。


http://www.asia-net.biz/


私の会社、パングーにおいても様々な情報発信をしております。よろしければ、ウェブの閲覧、FacebookやTwitterのフォローをいただけると大変うれしいです。


https://www.pangoo.jp/


公開日時
2023年1月4日(水)