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海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第3回台湾で売る(1):台湾に進出・出店する!「講義録(要旨)」(2022年10月20日)
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海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第3回

台湾で売る(1):台湾に進出・出店する! (議事録)



今回は第3回として『台湾に進出・出店する!』ということで、台湾に現地法人を作る、もしくは店を出すなど、現地に何か拠点を作ろうと考えている横浜の中小企業の皆様のためにお話をしたいと思います。


最近の台湾


最近の台湾については第1回でも解説しておりますので、よろしければそちらを見ていただければと思います。


https://www.idec.or.jp/topics/article.html?id=2775


ただ、台湾への渡航制限についてだけ、色々進捗がありましたので、触れたいと思います。


いよいよ台湾でも日本からの入国した際の強制隔離が無くなりました。ただし自主管理期間は残っています。これは入国時に渡される自己検査キットを使い、陰性であれば外出できるというものです。事実上かなり現地での行動が自由になっていますが、マスクはつけ、体調管理にも気を付けるようにしてください。


台湾をデータで見る


まず台湾に進出する理由・魅力というものを再度考えてみたいと思います。


まずは台湾の年間経済成長率(青)です。四半期(青破線)で見ると、マイナスになった時期もあります。これは店内での飲食などの行動制限によるものであり、台湾でも内需に対して大きな影響がありました。ただ半導体やIT製品などの外需が非常に好調で年単位(青実線)でみると台湾は上手く経済を回していると言えます。


参考までに日本のデータも掲載しています(年間:赤実線、四半期:赤破線)。これだけ見ると日本が悪く見えますが、そもそも台湾と日本のGDPの規模にかなりの違いがあり、他にも条件も違うので、単純な比較はできないことにご留意ください。


こういった台湾の勢いに乗ろうというのは確かに悪くないように思います。ただし台湾全体の経済の勢いと個別の業界の話は分けて考えていく必要があります。


台湾の市場規模は中小企業には十分



例えば国土が大きい国や人口が多い国と比較し、台湾の可能性の低さを指摘する方がおられますが、正直人口が何億いても中小企業の場合は正直アクセスできる数ではないと筆者は考えています。


面積は九州くらい、人口は東京都+神奈川県くらいの台湾への進出は、例えば横浜から他の大都市圏に支店を出すくらいの話であり、決して小さな話ではないと思います。


また台湾人の新卒給与も2021年当時の数字、為替相場だと12万円程度であり、若い人材も雇いやすいと思います。


意外に強い、台湾人の購買力



先ほど台湾人の新卒給与を示しましたが、日本より安いので、台湾人の購買力を心配される方が良くおられるのですが、台湾にお詳しい方であれば、実際の台湾人の購買力はかなり強いことを肌身でお感じになられているかと思います。


これを何とかもう少し理屈立てて説明できないかということで、台湾の一人当たりのGDPを購買力平価で換算したものを各国・地域と比較してみました。非常に平たく言えば、GDPの数字だけでなく、各国・地域の物価も踏まえて、GDPの価値をより実態に即したものにしようとしたものです。


購買力平価の理論自体も完全ではなく、あくまでも目安ですが、台湾の一人当たりのGDPを購買力平価で換算したものを見るとなかなか面白いことが分かります。名目GDPは低い台湾ですが、購買力平価で調整をすると日本や韓国よりも高いのです。


一人当たりGDPがそのまま個人の収入を示すものではありませんが、なぜ台湾人がコロナ前に頻繁に日本旅行に来たり、また台湾で高級車を乗り回しているのかをデータで説明する手がかりの一つではあると思います。


定量的なデータで裏付けすることの大切さ



実際、


  • 2021年のベンツ販売数
    台湾27,889台 vs. 日本51,678台

  • 2019年出国回数
    台湾1,710万人 vs. 日本2,008万人


・・・と台湾が日本の1/5位の人口であることを考えると大変多いということが分かります。また消費に関しても、


  • 某日系チェーン店の「豚のロースかつ定食」
    台湾300元(1380円) vs.日本980円


・・・と台湾の方が若干高いくらいですが、某日系チェーン店は台湾でも人気で店が台湾全土にあります。要は「金はあるところにはある」と言えそうです。


こうやって見ているともちろん直感的に分かることもあるかと思います。しかし直感だけではなく、こうやって客観的なデータでも検証することによって、より直感に裏付けを持たせ、確信を持つこともできるわけです。


台湾の親日をデータで把握


IDEC横浜に相談される際に台湾ビジネスを考える理由として「台湾の親日ぶり」を挙げられる方は多いですが、これを数字で検証してみましょう。毎年公益財団法人日本台湾交流協会が定期的に台湾における対日世論調査を行っていますので、2021年度の調査を見てみましょう。


毎年、最も好きな国の第一位は日本となっています。2021年度は60%で過去最高となり、中国やアメリカを大きく引き離しています。


年齢別で見ても、50-64歳以外の年齢層は半数以上が日本が最も好きだと回答しており、うち30-39歳が一番多く、また2018年度との比較では40-49歳が大きく伸びているのがグラフから見て取れます。


上記の棒グラフは「オレンジ=親しみを感じる」、「ブルー=親しみを感じない」なのですが、「オレンジ=親しみを感じる」人がかなり多いのが分かります。


ちなみにブルーで一番多いのが「どちらとも言えない」ので、これを否定的と解釈しないとすると、さらに差が広がります。



また「最も親しくすべき国」で日本は46%で1位で、また過去最高の高い割合となりました。2018年度調査では2位だった中国は大きく数字を下げ3位となり、2位はアメリカとなっています。



最後は日本のどの分野に興味があるかですが、観光、食文化、自然・風土、日本人の精神・哲学、現代文化・ポップカルチャーと実に多岐にわたりますし、「日本らしい」部分に着目してくれているのがよくわかります。


実際、日本的な職人技とか、こだわりの様なものも中国語で紹介されており、そういったものに価値を見出してくれる方が台湾には多いように筆者自身も思います。


台湾の言葉の中の日本



台湾の方が日本に対して親しみを持っていることは、台湾で使われている言葉の上からも説明ができます。こうやって見ると日本語から輸入された言葉がかなり使われています。


台湾の親日に過度に頼るのは禁物


いくら台湾人が日本が好きだと言っても、それに過度に頼るのは考え物です。例えば福島産食品の輸入解禁は2022年2月21日にようやく解禁されましたが、じゃあ台湾人みんなが安心して買えるかと言われれば別問題です。



例えば上記は福島やその周辺の県(茨城・栃木・群馬・千葉)産の食品輸入に対する与党・民進党の調査なのですが、否定的な回答もかなりあります。



そもそも質問にも上記のようにかなりの前提がついています。風評被害を解消していくのはまだまだこれからで、今後も丁寧な説明が必要なのです。


美味しさをどのくらいの価格差に換算できるか?


こういうことは他にもあります。例えば日本から持ってきた食品で味には自信があるという場合、展示会で試食をした台湾人に「美味しいですか?」「買いたいですか?」と質問し、肯定的な回答を得たとします。


でも実際台湾で売り出した場合上手く行くとは限りません。多くのものには競合商品があります。本当は「競合商品より〇〇円高くても買いたい美味しさですか?」というのが問題なのです。


もちろん価格差がある理由を説明をし、納得してもらえないと売れないかもしれません。いずれにせよ、「親日だから」売れるだろうという曖昧な期待は一番の禁物であるわけです。


アクセスしやすい市場



台湾市場のアクセスしやすさについてもお話ししたいと思います。ウェブサイトの公開が自由、FacebookやLINEやGoogleなどが使える、道が山奥まで整備されている、宅配便がどこでも届く、電力が使えるなど、日本だと当たり前ですが、発展途上国ではそうではないことに注意が必要です。


インフラが整備されていないとそれが集中整備された工業団地やレンタル工場に焦点が当たりますが、そもそも台湾では全般的にインフラが整備されているので、わざわざそういうものが必要なく、普通に賃貸で工場を借りれば良いだけなのです。


中国語圏・アジアの中の台湾



台湾は台湾単独ではなく、中国語圏の中心としてみることもできます。中国と並ぶ標準中国語(北京語)のメッカとして留学者が多く、まずは中国語圏の芸能・音楽・新語は台湾から発信されているものが多いですし、先に上げた日本から台湾に入った新語が中国語圏に発信されることもあります。


またiPhoneはMade in Chinaだけど、Made by Taiwanで、台湾系の製造代行企業が作っていますし、半導体はTSMCなどの存在感は皆様もご存じかと思います。


東南アジア華僑とのつながりもあり、台北にはミャンマー華僑が集まる一帯があり、東南アジア各地から外国人労働者を受け入れていてもいます。


こんな感じで、台湾は中華圏もしくは東南アジアの国々とも様々なつながりがあり、台湾に進出するとこういった国も次の国として意識することになると思います。


台湾現地法人は必要か?



台湾進出のメリットやその検証をいろいろ行ってきたわけですが、もし台湾進出をするとして、まずは台湾に現地拠点を設立する必要があるのか、ということも慎重に検討する必要があります。


実際台湾に店を出したりすると当然必要になるわけですが、日本へ輸入する場合は別に台湾に拠点は必須というわけではありません。


台湾に輸出する場合は台湾に代理店を見つけて任せられる場合は不要ですが、代理店が一生懸命自分のところの製品を売ってくれるかどうかがポイントです。代理店だって利益がありますから、他に価格が安いなどで売りやすい商品があれば、そっちを一生懸命売るということも考えられます。もし代理店に任せられないということであれば、台湾に拠点を作って自社で売るしかないわけです。


あと越境ECに関しては注意が必要です。よく越境ECなら相手国に拠点がいらないという話をされる方もいるのですが、その代わりに購入者に相手国での通関手続きを押し付けている場合もあります。


まずはこんな感じでやりたいビジネスに対して、台湾現地拠点の設置が適切かを考えなくてはいけません。


台湾現地法人設立の条件



台湾現地法人が必要だという判断が出た場合、まず日本人を日本から台湾に送り込んで駐在させたいかで資本金や売上などの条件が変わってくることに注意が必要です。逆に言えば台湾人だけで台湾拠点を運営する場合は、または代表者1名のみ日本人を派遣する場合は、資本金や売上に関する条件はそこまで厳しくないわけです。


あと当たり前のことですが、しばらくは台湾での収益が無くても続けられるだけの資金が必要です。資本金の形でもいいですし、台湾拠点に貸す形でも構いませんが、日本と同じく資金繰りの問題は忘れないようにしてください。


台湾の店舗の賃料



お店を出したい方が気になる店舗物件の賃料水準ですが、場所次第で大きく変わります。特に大通りに面した1階の店舗は東京以上かもしれませんが、ちょっと一本奥に入ったり、2階以上だったりすると大幅に下がったりするので、差は非常に大きいです。


一方、日本と同じく「居抜き」の概念もあり、またGoogle MapやFacebookも良く使われているので、この辺は日本でのノウハウは活かしやすいと思います。


周囲のアドバイスをどう聞くべきか?



後半になりましたが、海外進出に当たって誰のアドバイスをきけばよいのか、という話をしたいと思います。


まず中国語圏のビジネスでは人脈の大事さが強調されることがあります。しかし双方にメリットがあってこその関係だと考えるべきです。


また「協力しましょう」と言われても、実際に協力を具体化する中で上手く行かない場合だって当然出てきますし、そもそも具体化していく旗振り役が居なければ、ただの社交辞令で終わるケースがほとんどだと思います。


よくよく考えてみると日本だと当たり前のことで、海外だからと言って特別な話ではないのですが、ついつい海外だとその辺の判断が甘くなりがちなので注意が必要です。



例えば台湾から何かを買う場合は、台湾側は歓迎してくれます。視察や訪問も問い合わせも上手く行けば自社の利益につながるから大歓迎です。


逆に台湾に売り込む場合は、よほど買いたいものでない限りは、台湾側だって忙しいので、打ち合わせを持ち掛けても、なかなかOKされないのが普通です。それにこちらから売り込みに行ったら、「じゃあ安くしてくれるんですか?」など、相手優位の交渉になるのも当然予想される事態なわけで、そこは工夫しないといけないのは日本と同じです。


日本の場合はウェブを作って問い合わせを待つとか、展示会に出展してみるとか、広告を出すとか、いろいろ苦労されていると思いますが、台湾だって同じことです。色々作戦を考えていかないといけないわけです。


そもそも1人の人間の知識や経験は限られています。よって展示会やネットなどオープンな場を通し、自社の存在や持っているものを発信し、幅広く最適なパートナーを探すのが合理的だと筆者は考えます。コンサルタントのサポートを受けつつも、人脈は自社で作っていくものなのです。


しっかり調査をすべき



今回、参加者の方から「台湾にはペットフードの輸入規制はあるか?」という質問がありました、大変恐縮ながらこれを題材として調査の重要さをお話ししたいと思います。


まず分からないから質問されるわけですから、当然のことながら質問は漠然としています。よって漠然とした質問を、何を調べるべきかの具体的な課題に落とし込むところから、お手伝いがスタートします。


まずは包装、材料、製品の形状など・・・の製品詳細が分からないといけません。また商品を台湾で生産(生産委託)するのか、自社で台湾に拠点を作って輸入するのか、代理店に輸入させるのか・・・ビジネスモデルの詳細も必要になります。


次に調査に入りますが、まず肉が入っていれば検疫に関する規定がありますし、他にも複数の規制が組み合わさっているので、条文を一つ一つ押さえる必要があります。


簡単な質問に見えて、口頭で簡単に答えられるものではないことがお分かりいただけると思います。


基本的にはこういった質問には調査書を作成して報告を行っています。横浜市内の中小企業に対してはIDEC横浜の台湾サポートデスクが調査を行います。年度内3回までという制限がありますが、無料ですので上手く活用いただければと思います。


こんな方法も、フランチャイズ方式



台湾に店を出したいという場合にちょっと変わった手として紹介するのが、加盟店方式です。上手く行けば、やる気のある台湾の店長候補が、加盟金や保証金をもってきて加入してくれるので、自己資金での負担なく台湾に店を増やせます。


台湾では写真の様なフランチャイズに関する展示会が年3〜4回行われており、独立を考える台湾の方がたくさん来る人気の展示会になっています。また会場で加盟申し込みを受け付けている出展者も多く、会場でどんどん「〇〇地区出店決定」と張り紙が出たりもします。


出展する業界は飲食が多いですが、他にも学習塾だったり、ネイルや美容サロンなどのサービス業もあります。


こういった加盟方式で店舗を増やす場合は、1店舗は台湾で直営店をやり、台湾における内装や調理方法などのノウハウを固めてから、募集ということになります。


最後に



最後になりますが、IDEC横浜では様々な台湾を含めた海外ビジネスに関するセミナー、支援を実施しています。また今回の内容も含め、全5回のセミナーは順次動画やウェブサイトで公開予定です。是非ご覧いただければと思います。


https://www.idec.or.jp/business/overseas/index.html


また本日のゲスト講師であった吉村さんは中小企業の海外進出を支援する「ASIA-NET」を主宰されています。こちらでも様々なセミナーが行われていますので、是非開催情報をご確認頂ければと思います。


http://www.asia-net.biz/


私の会社、パングーにおいても様々な情報発信をしております。よろしければ、ウェブの閲覧、FacebookやTwitterのフォローをいただけると大変うれしいです。


https://www.pangoo.jp/







 


公開日時
2022年11月22日(火)