タイトル
海外ビジネスを考える 横浜の中小企業のための台湾セミナー 第1回 台湾で「仕入れる」:輸入販売と製造委託 「講義録(要旨)」(2022年7月21日)
本文

このレポートは、2022年7月にオンラインセミナーで講演した内容を文章にしたものです。

 

     ▶▶▶ 本セミナーの動画はこちら

 

海外ビジネスを考える

横浜の中小企業のための台湾セミナー 第1回

台湾で「仕入れる」:輸入販売と製造委託 「講義録(要旨)」



今回は第1回として『台湾で「仕入れる」』ということで輸入ビジネスについて触れたいと思います。


最近の台湾


最近の台湾についてお知りになりたい方もいらっしゃるかと思うので、いくつかお見せしたいと思います。


まずは台湾の年間経済成長率(青)です。四半期(青破線)で見ると、マイナスになった時期もあります。これは店内での飲食などの行動制限によるものであり、台湾でも内需に対して大きな影響がありました。ただ半導体やIT製品などの外需が非常に好調で年単位(青実線)でみると台湾は上手く経済を回していると言えます。


参考までに日本のデータも掲載しています(年間:赤実線、四半期:赤破線)。これだけ見ると日本が悪く見えますが、そもそも台湾と日本のGDPの規模にかなりの違いがあり、他にも条件も違うので、単純な比較はできないことにご留意ください。



こちらは台湾最大の食品関係の展示会であるFood Taipeiの様子です。2022年6月に開催されました。マスクを付けながらも多くの人が来ているのがお分かりいただけるかと思います。



台湾への渡航制限ですが、世界標準に歩調を合わせ、徐々に緩和の方向に向かっていくものと考えられます。ビジネスや留学に加え、ワーキングホリデーもビザを取得して渡航が可能になっています。


本題、まず最初に


本題に入りますが、まず輸入する物は誰でも思いつくものでは競争が激しい「レッドオーシャン」に飛び込むことになります。誰かに「何が売れますか?」と尋ねているようでは厳しく、やはり「自分のアンテナ」で探すべきということになります。


そもそも上記を含めて、輸入ビジネスは決して簡単ではないということを理解していただけると心の準備になるかと思います。仕入れのための資金も必要ですし、仕入れたら売り切らないと在庫を抱えて困ることになります。


また自分のために購入するのとは違い、商品を日本でも「売れる形」にするために、説明書を日本語に直したり、必要な認証や許可をとったり、広告したり、お金を受け取ったりと商品を売れる形にするための色々な準備が必要です。


「売れる形」にもっていくためには色々な落とし穴がありますので、できれば誰かに意見をもらえたりすると良いかと思います。そういう意味では横浜市内の中小企業や起業希望者の方はIDEC横浜の各種相談制度でエキスパートに相談ができますので、活用いただければと思います。


あと自分が買う側だからと言って無理難題をいうとメーカーから相手にされなくなる可能性があります。例えば大企業であれば、商品や製造過程にいろいろ意見を言うと聞いてもらえると思います。でもそれはその大企業が大量に買ってくれるからです。


そうでなくて一個人がメーカーに改善をお願いする場合は、例えばその改善で売上がどのくらい上がるのかという費用対効果を示さないとメーカーも改善に踏み切れません。あくまでも対等の立場でどうすればWin-Winになれるか相手の事も考えながら話をすると良いのではないかと思います。


厳しいことばかり言いましたが、現在は輸入ビジネスも多様化し、非メーカーであっても製造代行の会社を活用すれば、自社製品を世に送り出せるようになってきました。自社独占販売だけでなく、場合によっては非メーカーであっても代理店を通して販売する立場に立つことも可能なわけです。今回は製造代行も含めた輸入ビジネスについてお話ししたいと思います。


「自分のアンテナ」を張ることの重要性


輸入ビジネスに限らず、商売というのは一種の「ひらめき」から始まることが多いと思います。しかし一部の天才によるひらめきはともかく、一般的な「ひらめき」は、そこまで独創性が高くなく、他の人が思いついていたり、思いついても実行できない理由があったりすることが多いです。


しかしながら天才でなくてもビジネスに結びつくひらめきを得ることは可能だと思います。特に中小企業ということで考えると、例えば以下の要素などがあると上手くいっている例が多いように思います。


  • 自分が深く知っている業界などのマニアックな世界(専門性)
  • 自分で売れそうな顧客をすでに知っている(商圏)
  • 大企業が参入するほどの市場規模がなさそう(ニッチ)


今の自社のリソースやノウハウ、知識を踏まえながら、国内外を問わず他の人が何をやっているか、どんな技術的・商業的な流れがあるのか情報収集し、その上で自分なりにちょっとした付加価値がつけられ、かつ自分が良く知っているニッチ市場に売り込めれば一番理想というわけです。


台湾で製造可能なもの



台湾企業で製造可能な物には色々あります。下記はごく一部です。台湾企業が自社ブランドで売り込むことを余りしていないため、意外なものもおありかもしれません。


  • 半導体:中小企業にはあまり関係ないかも
  • 電子製品・IoT製品:ソフト屋さんはソフトで付加価値がつけられる。
  • スマホ・PCアクセサリー
  • スクーター(バイク)・車アクセサリー:スクーターの部品はいろいろ
  • キャンプ用品:台湾ブランドのキャンプ用品が日本でも人気(木材加工+金属加工)
  • 食品:一時期は日本からタピオカ買い付けが盛んに。ひそかに大手コンビニなど大手企業への納入業者もいます。
  • 文房具
  • 健康食品:普通のもの、漢方系のもの、両方盛んです。
  • 化粧品・美容品:原料も含めて色々取扱があります。一時期はフェイスマスクのOEMが流行っていました。


また最終製品に目を付けるのではなく、その過程にも目を向けるのもポイントです。例えばキャンプ用品は金属加工と木材加工の両方がないとできません。ということはどちらか一つだけが必要な製品の製造を委託することも可能なわけです。


展示会でネタを探す



台湾への渡航が再開したら台湾の展示会を見に行くのも良いと思います。台湾企業以外にも中国大陸など他の国・地域の出展もあります。また台湾企業は海外とのビジネスに積極的に取り組んでいるので、台湾企業の展示を見ると世界的なトレンドをつかむこともできるでしょう。こうやって情報収集することで、自分自身の「ひらめき」もより洗練されると思います。


台湾現地に行かなくてもオンラインで出展者やその製品を調べることもできます。また日本の展示会に台湾企業が出展することもあります。台湾への渡航が出来ないとしても、ビジネスを遅らせる理由にはなりません。出来る範囲で情報収集を進めると良いと思います。


台湾の展示会で似た商品が多い理由



台湾の展示会、例えば世界最大級のIT・電子製品全般の展示会であるComputex Taipei (コンピュテックス・タイペイ)であっても、見に来た日本人の方からは「似たような商品が多い」という感想を聞くことがあります。


それもそのはずで、新機能や技術は部品やチップなどに盛り込まれ、参考回路図などがついて台湾メーカーに出回り、台湾メーカーはそれをつかってものづくりをします。部品やチップが共通している以上、似たような製品が並んで当然なのです。


場合によっては金型などのコストの関係で、自分で一から製造せず、既に製造したメーカーから買ってくることもあります。こうやって一見するとデザインまで一緒の製品が色々なブースで並ぶこともあるわけです。


こういう事情を知ると似たような商品が並んでいる場合は、どこがちょっと他とは違うオリジナル要素を加え、面白い商品に仕上げているのか。またどこが自分で作っていて、どこが他所から買ってきているのかを見極めることが大事になってきます。


例えばある商品を見つけてそれをカスタマイズした商品の製造代行を頼む場合、自分で製造していないところより、製造しているところに頼んだ方が製造に関する知見もあり、恐らくカスタマイズもスムーズなはずです。


クラウドファンディングに見る「情報格差」とチャンス



これは某クラウドファンディングのサイトで3億円以上の資金を集めたが、後でいろいろ問題が指摘された案件です。


まず炎上した理由の一つが商品の革新性についてかなり誇張をしたと受け取られる言い方をしたことです。実際はこの種の商品は工業用などでは以前から使われており、また小型のものはメガネの洗浄などでも使われていたものです。


また中国のサイトを見ると中国メーカーからそっくりな製品がでていました。事情を知る人が見ると中国企業が自社製品をほとんどカスタマイズせずに製造代行した製品に見えます。革新性に関して疑問が出てくるのは当然と言えます。


またこの商品は定価約10万円、早期予約割引で6万円から販売されていたのですが、中国のサイトでは似たような製品が日本円で2万円ちょっとで販売されていました。この価格差も炎上の原因になりました。


日本で販売するには各種の認証も通さなくてはいけませんし、日本語の説明書なども準備しなくてはいけないので、全く同じ価格で販売することは不可能ですが、数倍の価格差はそれだけでは合理的な説明は困難です。少なくともそうとらえるネットユーザーは少なくありませんでした。


最後に性能の問題もありました。原理上、図にあるような小型の機械で、シンクいっぱいの食器をきれいにするのは難しく、実際業務用のものはもっと高出力の超音波を発生させるため、大きくなっています。よって多くの人にとって効果は期待値に届かなかったのではないかと思います。


この案件はニュースサイトでも採り上げられた案件ですが、似たような問題を抱えた事例はクラウドファンディングのサイトではかなり多く存在します。一言でいうと「情報格差」を悪用し、知らないことを良いことに、実際以上の革新性をアピールし、値段も割高にしている疑いがある案件があるということです。


しかし悪用しなければこの情報格差はビジネスのネタになり得るものです。海外や業務用では普通だが、これを日本で家庭用として売ってみるなど、既にあるものでも市場を変えれば新商品になる可能性を秘めたものはあるということが言えます。


良い商品を見つけたらメーカーとどう条件交渉をするか?



良い商品を見つけたら「日本でも取り扱いたい!」となるわけですが、その際にはメーカーとの条件交渉をしっかり行わなくてはなりません。


輸入販売 v.s. 製造委託


良い商品を見つけたら「日本でも取り扱いたい!」となるわけですが、輸入販売と製造委託というのは実はそんなに大きな違いがない場合が多いです。両方候補に入れてビジネスモデルを考えていただければと思います。


もちろんゼロから設計から始めて・・・という話だと製造委託のハードルは高いですが、ほぼ出来上がっている物のブランドだけ変更するという話であれば、金型すら変更する必要はなく、ほぼ出来合いのものを買うという意味では輸入販売と大きな差はありません。


見積でよく出てくるFOBって何?・貿易条件・インコタームズ



輸出に慣れた台湾の会社から見積をもらうと


  • 1回で購入しなくてはいけない最低購買量
  • 梱包サイズと個数(例えば段ボールやコンテナのサイズとそこに何個の製品を詰め込めるか)
  • 価格


などと共に「FOB KEELUNG」などと記載されることが多いです。KEELUNGは台湾北部の主要港、基隆(キールン)港のことで、基隆港まで買手が船を手配し、その船に売手が商品を積み込んだ時点で商品引き渡しが完了したことを意味します。


今は岸壁まで売手が乗り付けて船積みをするということはなく、港にある運送事業者倉庫までもっていく「FCA」が多いですが、歴史的経緯で「FOB」という言い方も根強く残っています。この「FOB」や「FCA」の様な貿易条件の定義をインコタームズと呼んでいます。


重要なポイントとしては引き渡しの場所やタイミングを明確にすることです。手で持てる荷物であれば別ですが、フォークリフトを使わなくてはいけない程の大きな荷物であれば、荷物を上げ下げするのは誰かを含めて決めておかないと、どっちがフォークリフトなどを用意するかが不明確になってしまいます。


もう一つ重要なポイントとしては、EXWやFCAやFOBというのは台湾内での商品引き渡しを想定していることです。一見すると国際送料の大半を日本側・輸入側に押し付けているように見えますが、台湾側・輸出側からすると、台湾内の運送費だけ計算できれば出荷価格が出せるので見積しやすいというメリットがあります。


日本側・輸入側は台湾から日本までの運送経路のかなりの部分のリスクを負担しますが、そこは保険をかけてカバーするのが普通です。

もちろんインコタームズには売手が買手のところまで運んで引き渡すという条件もあります。この場合は日本国内の陸送まで含めて見積を取らなくてはいけないので、手間暇がかかります。


さらにインコタームズには中間的な条件もあります。台湾で荷物を引き取って日本に輸送するアレンジを日本から行うと高くつくことが多く、台湾側に代わりに見積をとってもらってアレンジしてもらうという形です。


台湾側・売手は国際区間や日本の陸送区間のリスクは負わないので、そこは売手に保険を掛けるところまで代行してもらうことが多いです(CIP)。


独占か非独占か?


同じ商品を日本の別会社に販売されたら、価格以外の差別化が難しいため、非常に厳しい競争になることが多いため、独占販売権を取れるかどうかは非常に大事です。日本など、地域を限定することが多いです。同じ理由で似たような製品を競合他社に供給しないことをメーカーに求める事もあります。


メーカーとしても独占販売の要求に応じては短期的には売上が減少する可能性が高いです。ただメーカーとしても同じ製品を複数の経路で販売し、価格のたたき合いになるのは決して理想とは言えません。よってどう日本で売っていくのかしっかりとした販売計画を立てて相談すれば相談に乗ってくれることも多いと思います。


不良や故障への対応


海外で生産された製品は日本では輸入販売者がメーカーと同じ義務を負うことが多いです。台湾のメーカーから見ても何かあったら全て台湾側に丸投げされては何のための日本のパートナーか分かりません。例えば日本国内に返送拠点を設け、何かあれば本当に問題があるかどうかを検査する、簡単な修理を行うくらいはできるようにするべきだと思います。


また製品の保証期間ですが、「台湾メーカーから出荷後1年」とかでは、最終ユーザーの手元に届いてからの保証期間と不整合となる可能性が高いです。「台湾メーカーから出荷後3年」など長めにしてもらうか、「最終ユーザーに出荷後1年」などにしてもらうかなど、交渉するべきだと思います。


認証・許可


先ほど海外で生産された製品は日本では輸入販売者がメーカーと同じ義務を負うことが多い事を申し上げましたが、日本国内での安全に関する認証や許可でもメーカーと同じ責任を負います。例えば以下のようなものがあります。


  • 無線通信を使う機器は「技術基準適合証明」
  • AC電源・リチウム電池を使うものは「PSE」
  • レーザーを使うものは「PSC」、食品・添加物・食器・容器・包装・乳児用おもちゃなど、口に入りそうなものは「食品衛生法」
  • 肉類は動物検疫の対象になりますし、植物も植物検疫の対象になることもあります。特に肉類は口蹄疫や狂牛病、鳥インフルエンザなどで非常に厳しくなったのはニュースでご覧になったことがあると思います。
  • 医薬品・医療機器・化粧品は「薬事法」、軟膏など外用も対象ですし、人体用のせっけんも対象です。


相談を受けると、失礼を覚悟で申し上げると、皆様あれこれ「自分解釈」でなんとか規制を回避しようとします。しかし安全などのための規制です。自分に都合の良い解釈は基本的には通らないと思っていてください。


ただ認証に通るだけではだめで、何かあった時に検証できるようにメーカーから試験データをもらい、後で欠陥が判明し製品回収(リコール)が必要な場合は製品回収も行う必要があります。


また輸入品の場合、製造物責任(PL)は輸入者が負うことになっているので、PL保険への加入も必要です。例えば、商工三団体(商工会議所、商工会、中小企業団体中央会)でも中小企業向けの制度がありますし、普通に保険会社に問い合わせても良いかと思います。


最後に


輸入販売や製造代行についてお話ししましたが、情報収集と見つけたものを売れる状態にもっていくまでの準備がやはり大事だと改めて思います。努力をするというのは当然の事なのですが、方向性に不安があればIDEC横浜の各種相談制度を使ってみてください。


台湾サポートデスク
Pangoo Company Limited 代表 吉野 貴宣


本セミナーの動画はyoutubeで公開中!! ▶▶▶ 動画



公開日時
2022年8月4日(木)