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海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第2回 台湾製品に学ぶ、技術やアイデアを「金」に変える方法「講義録(要旨)」(2022年9月13日)
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海外ビジネスを考える、横浜の中小企業のための台湾セミナー 第2回

台湾製品に学ぶ、技術やアイデアを「金」に変える方法 (議事録)



今回は第2回として『台湾製品に学ぶ、技術やアイデアを「金」に変える方法』ということで台湾製品を見ながら、技術やアイデアをどうビジネスにつなげているのか一緒に考えたいと思います。


ちなみに「金」と書くのか、「ビジネス」と書くのかは少し悩んだのですが、敢えて直接的な「金」という言葉を選びました。


最近の台湾


最近の台湾については第1回でも解説しておりますので、よろしければそちらを見ていただければと思うのですが、台湾への渡航制限についてだけ、ちょっとした進捗がありましたので、触れたいと思います。


台湾への渡航制限ですが、世界標準に歩調を合わせ、徐々に緩和の方向に向かっていくものと考えられます。ビジネスや留学に加え、ワーキングホリデーもビザを取得して渡航が可能になっています。また09/12には一部の国に対するノービザ入国が再開されました。


セミナー実施日である09/13現在では日本はまだ対象ではありませんが、いずれどこかのタイミングで再開も視野に入っているようです。ただし具体的な日付は何も発表されていませんが、希望的観測が入りすぎた報道やSNSでの発言も見受けられるので、情報源には充分注意していただきたいと思います。


まず最初に



本題に入りますが、まず誰でも思いつくような製品やビジネスモデルでは競争が激しい「レッドオーシャン」に飛び込むことになります。誰かに「何が売れますか?」と尋ねているようでは厳しく、やはり「自分のアンテナ」で探すべきということになります。


次に台湾の展示会などで台湾企業の製品を見て「それうちでもできるよ」「技術的には大したことないね」とおっしゃる日本の方も結構いらっしゃいます。それはそうだと思うのですが、逆に言えば同じような技術やアイデアを持っていてもビジネスに繋げられていないという事でもあり、その点については考えてみる必要があるのではないかと思います。


そういう意味では今回は技術やアイデアを実際の「もうけ」に繋げる部分に力点を置くので、技術的にすごいかどうかという話をしないことにご留意いただきたいと思います。


最後に台湾企業の強みというと、やはりスピードになるかと思います。台湾企業だって失敗はします。しかしドンドン試すから「数打てば・・・」ではないですが、成功もその中から生まれてきます。


いつもの台湾製品紹介では製品の面白さ・ユニークさなどをポイントに製品を選ぶのですが、今回は技術やアイデアをしっかりビジネスに繋げていると思われる会社・製品を選択しています。


また注目した製品を出した「その後」もご紹介します。いくら製品が注目を集めても、一つの製品だけでずっとビジネスはできないことがほとんどです。「その後」も合わせて紹介することで、どうビジネスを継続できているのかを皆さんと学びたいと思います。


製品1:組み合わせの妙(バンドル)+MVP、Minimum Viable Product(実用に足る最小限の製品)



まずご紹介したいのは、社員の体温チェックシステム (LeadBest社)です。概要としては以下の通りで、良くあるコロナ対策製品という感じがします。


  • 体温計+タブレットPC+アプリ・クラウドの組み合わせ

  • 毎日社員・訪問者に体温を測定させ、記録

  • 発熱した場合は警告が出る


ちなみに体温計は台湾の大手で世界各国に輸出しているメーカーですし、タブレットも韓国の大手メーカー、アプリやクラウドも香港の会社が開発したものをほぼそのまま流用しています。


しかし、①必要最小限を見極め、②既存品を上手く組み合わせ、③タイミングよく商品化したため、企業がコロナ対策に取り組み始めたところに上手く製品を投入できたのが、この会社がビジネスに繋げた大きなポイントになります。


①のことを特に「MVP」、Minimum Viable Product(実用に足る最小限の製品)と呼んだりもしますが、ここは企業の、特に総務部など管理部門のニーズを深く理解できていないと意外に難しい作業です。


例えばiPhoneやスマートフォンは今でこそ需要が大いにある製品だと分かりますが、iPhoneが開発される前に、iPhoneの様な製品に対する需要があることを知るのは実に困難な作業です。恐らくスティーブ・ジョブズ氏のような天才だからこそ、ひらめいたのだと思います。


体温測定のソリューションに関しては「ひらめき」に至る困難はそこまで高くなかったとは思いますが、やはり完成した製品がまだないわけですから、先に漠然としたニーズを聴いて、どういう製品を作るか考える必要はあるわけです。


なお、こういったニーズから新製品に繋げる「ひらめき」の困難さをここでは「アイデアの壁」と呼びます。後の製品紹介でも「アイデアの壁」を採り上げたいと思いますので、覚えておいていただければと思います。


市販品を組み合わせる意味



市販品をわざわざ組み合わせるのにはこんなメリットもあります。


  • スピード:市販品なので調達するのに手間暇がかからない。とくに体温計は

  • 動作検証済:使っていて問題が発生する可能性が低い。

  • 「手離れ」が良い:顧客対応をあまり必要としない


「手離れ」という単語になじみがない方もいらっしゃるかもしれませんが、販売した後に顧客対応を必要としない製品・サービスを指します。トラブルが頻発してはその対応に会社のリソースを使わなければ足りませんし、営業担当者の売るモチベーションも下がります。そうならないように製品開発時に配慮できると売りやすくなるわけです。


セットで売ることで体温計やタブレットPCの機種を固定できます。そうすると事前に検証できるので、例えば以下の様な問題も起こりにくいのではないかと思われます。


  • 体温計・タブレットPC間の相性の問題でBluetooth接続が上手く行かない

  • アプリ・タブレットPC間の相性の問題でアプリが作動しない


ラストリゾート(Last Resort、最終手段)


トラブルを起こしにくいように製品開発をしたとしても、トラブルが起こる可能性をゼロにすることはできません。この製品には体温計で測定した結果を手入力で入力する手段が用意されているようです。どうしてもうまく動かない場合にこういった形で用意された最終手段のことを「ラストリゾート(Last Resort)」と呼ぶことがあります。


ラストリゾートには割り切りが必要で、検査の効率などは悪いかもしれませんが、トラブル対応の中でこういったラストリゾートを作っておくことも売りやすい商品を作る上では重要だと思います。


垂直統合や個別最適をしていたらどうなったか?


例えば垂直統合で全てを合わせたキオスク端末を開発したら開発に時間がかかり、最適なタイミングで投入できなかった可能性が高いのではないかと思います。また大量生産されている体温計やタブレットPCに比べ、別途ハードウェアを作ることもコストが高くなる可能性もあります。


一方個別最適で、ユーザーに自由に体温計やタブレットPCを購入させ、アプリやクラウドのみ開発していればどうだったでしょう?かなり多くのタブレットPCと体温計の組み合わせで動作するように調整を重ねなくてはいけない可能性が高いように思います。


結果だけ見ると市販品を組み合わせるのは当然のように見えますが、日本企業の場合、製品開発時に、つい垂直統合や個別最適を行ってしまう企業が多いようにも思います。製品の企画や開発時に「割り切り」の発想が出てくるかが重要だと思います。


製品2:組み合わせの妙 (技術+応用分野)→分解の妙(アンバンドル)



次は「うそ発見器進化版」と名付けましたが、カメラによる感情測定を行う製品(FaceHeart社)です。概要としては以下の通りです。


  • 金融機関窓口に来訪した人の顔をカメラで撮影、生体指標(バイタルサイン、心拍レベル、音声、視線、表情など)を測定

  • 分析すると緊張などの感情が分かる

  • 不正利用などの兆候検出


技術の使い方で「もうひとひねり」



AIの応用に詳しい方はご存じかもしれませんが、カメラの映像を分析すると顔面の皮膚下の血液の流れから心拍数や呼吸数などのバイタルサイン(生体指標)を得ることができます。また表情を分析して感情を測定することも可能です。


これを活用して従業員の過労や過労運転の防止等が行われていますが、この辺は技術から発想された健康管理など直接的な応用だと思いますが、もうひとひねりして、こういった技術を金融機関での不正利用防止に応用したのが、この製品の突破した「アイデアの壁」だと思います。


得意分野に注力する、分解の妙 (アンバンドル)



カメラや小型PCまでセットにして販売していたFaceHeart社ですが、現在ウェブサイトを見る限りでは、顔の映像からのバイタルサインの測定・分析に特化し、それをSDK(Software Development Kit、ソフトウェア開発キット)の形で提供しています。こうやって製品の一部機能を取り出して販売することを「アンバンドル」ということがあります。


SDKを提供すると、それを自社以外の開発者も使ってくれて、さらに分析対象のデータが集まったり、自社では思いもつかない用途が見つかったりするのがメリットです。自社の技術を使ってもらい、他の人が「アイデアの壁」を越えるということも狙えるわけです。


しかしこれをやろうと思えば、まず自社の技術の実績を積み重ね、自社の技術の良さを知ってもらわなくてはいけません。いきなりSDKだけ販売というのもなかなか難しいように思います。よって最初にカメラやPCを組み合わせて金融機関に売り込んだりすることはやはり必要になるわけです。


アンバンドルはビジネスモデルでもある


他者にSDKを使ってもらうと、SDKの使い方を見れば、ひょっとすると自社でそのアイデアを盗むこともできるかもしれません。そうなるとSDKを他者に使ってもらうことは難しくなります。


例えば、SDKを使った最終製品を自社で手掛けない、もしくはSDKを取り扱う部門と最終製品を企画する部門の間にファイアウォール(情報遮断措置)を設定することも必要となってくる場合があります。


上記ほど大げさな話ではなくても、アンバンドルした製品とそれを組み込んだ製品の販売で矛盾が出る場合があります。例えばSI会社が自社ブランドでIoT関連のハードウェアを売り出したとしましょう。こんなことをすると恐らくハードウェアの販売が上手く行かなくなる可能性が高いです。


  • 自社SI案件でハードウェアを使う場合、社外への販売価格より安くしている

  • ハードウェアの販売利益で自社SI案件の他の費用を割引している(内部補助)

  • ハードウェア販売後のサポートなどで、自社SI案件限定で優遇条件を付ける


ハードウェアを売る観点からすると、製品の企画や生産、マニュアル作成、販売後のサポートなどやるべきことはたくさんあります。ユーザーへの販売やカスタマイズなどはどんどん他者に任せて行かないと手が回りません。


またハードウェアは量産効果が働きますので、どんどん販売できれば、価格も下がり、さらにハードウェアを普及させられ、ビジネスを拡大できる可能性が高くなるわけです。逆に言えば自社のSI案件にこだわっているとそのチャンスを逃す可能性も高くなるわけです。


つまり、アンバンドルは製品だけの話でなく、どこに注力すべきか、あるいは性質の異なるビジネスを分割するかどうかの、ビジネスモデルの話でもあるわけです。


製品3:「アイデアの壁」の突破で技術的な困難を回避し、新たな需要の掘り起こしへ



アンバンドルにビジネスを移した一つの事例としてEmorec社を見てみましょう。この会社は最初は「赤ちゃん鳴き声翻訳機」というスマホのアプリを提供していました。概要としては以下の通りです。


  • 乳幼児の泣き声を分析、空腹、眠い、痛い、おむつ交換などのパターンを特定

  • AIによる学習により、出生2週間以内の新生児の泣き声の認識率は男女にかかわらず90%以上(成長に伴い泣き声にも個性が出てくるため正確性は下がる)

  • AI誤答時はユーザーが正解を入力してAIに学習させる (ラストリゾート、最終手段)


AI(ディープラーニング)は勝手に動くわけではない


技術に詳しくなくてもどういったことがAIでできるのかということについては知っておくほうが、技術とビジネスを結び付けやすいと思いますので、AIの得意分野についてお話ししたいと思います。


現在のAIブームは実は第三次になります。これは機械学習の高度化を進めた「ディープラーニング(Deep Learning、深層学習)」により色々なことができるようになった事によるものです。人間と同等の知能を目指す話ではなく、あくまで特定の事項を機械学習により自動実行する話だと考えると分かりやすいと思います。


この「ディープラーニング」ですが、意地悪な言い方をすると人間に比べるとはるかに物覚えが悪いです。人間と比べると多くのデータがないと答えを導き出せません。例えばこの「赤ちゃん鳴き声翻訳機」では分析のため3年かけて300万個以上のデータを収集しています。


この膨大なデータを分析するだけの情報処理能力が半導体技術などの発展で身近になったことで「力技」ではありますがディープラーニングが実用化されているわけです。しかし機械には休憩などは必要ありませんので、特定の分野においては人間を上回る場合もでてきています。


乳幼児の面倒を見ている両親であれば、AIよりももっと少ない事例で分析が完了し、正解を導き出せる可能性が高いです。しかし頭の中でどういう分析をしたかを具体的に細かく説明し、教えるのはなかなか難しいはずです。


仕事などでもマニュアル化など、文字で説明するのは難しく、「習うより慣れよ」的な業務もあるかと思います。伝統的な技能だと徒弟制度で伝承されるでしょうし、多くの会社ではOJT(On-the-Job Training)による教育訓練が採り入れられています。


こういった分野において、上手く大量のデータが揃えられれば、「力技」でAIに学ばせることが期待できるわけです。


AIに教える「教師データ」とは?


先ほど「3年かけて300万個以上のデータ」と申し上げましたが、実際の収集は台湾の新生児病棟にて、24時間体制で乳幼児の泣き声を撮影・録音することで行っています。


また周囲の雑音や複数の乳幼児の泣き声が同時に録音されると、分析が難しくなるため、指向性の高いマイクを使用し、音源を分離するという苦労や工夫を重ねています。データだったら何でも良いわけではなく、その質も非常に重要なのです。


さらに毎回録音したあとに看護師が泣いた原因を確認・記録しています。「泣き声+泣いた原因」の組み合わせを300万個以上収集したわけです。


このように「泣き声」に対し「泣いた原因」という「正解」をセットにしたデータを「教師データ」と呼び、このような「例題+正解」をセットにしたデータでAIに学習させることを「教師あり学習」と呼んでいます。


先ほど「上手く大量のデータが揃えられれば」と申し上げましたが、正確には「例題+正解をセットにしたデータが揃えられれば」、人間がやっている業務の一部をAIに代行させられる可能性があるわけです。


消費者へのアプリ提供を止め、企業への技術提供のみに



もともとは技術の宣伝も兼ね「赤ちゃん言葉翻訳機」をスマホのアプリとして提供していましたが、現在は既に提供を終了しています。スタートアップにとってアプリの販売は利益が低く、また顧客対応も負担が重いため、現在は他社への技術提供に軸足を置いています。


報道では例えば、ウェブカメラと組み合わせ、泣き声だけでなく、呼吸や心拍などを監視して、新生児の世話をする両親の負担を減らす商品を考えているとのことでしたが、実際に出てきた商品を見ると結構意外な部分がありました。


写真の製品のポイントは乳幼児が泣いたり、笑ったりしたときに映像・画像を記録するところで、乳幼児の泣き声を認識する部分にEmorec社の技術が使われています。つまり


泣いている理由を知る

→乳幼児を撮影する「より良いシャッターチャンス」を検出


という「ひとひねり」が行われているのです。これは技術から発想してもなかなか出てこないアイデアだと思います。両親が写真を撮るとき、子供が泣くという変化もかわいさを感じ、ついシャッターを押してしまうというのは理解できます。


「割り切った」技術の利用


Emorec社の技術は乳幼児が泣いている時を検出する以上に、泣いた原因も泣き声から分析できる優れものです。しかし10%以下とは言え、AIが導き出した原因が外れる場合もありますし、出生2週間を超えると正答率はさらに下がります。


もちろん正答率を上げるべく改良を加えるのも真っ当なアプローチです。しかし「乳幼児が泣いている時を検出するだけでOK」と割り切って技術を活用することで、技術的な困難を回避し、かつ「より良いシャッターチャンスを検出」という需要を取り込んだ製品に仕上げたのです。


「泣いた原因を特定できるなら、音声から泣いているタイミングも当然検出出来るだろう」という技術に関する知見と、乳幼児ではなく、「乳幼児の両親」をターゲットにした場合のニーズの理解と深堀ができているからこそ、達成した「アイデアの壁」突破と言えるのではないかと思います。


「アイデアの壁」を突破するには



「ひとひねり」や「アイデアの壁」を踏まえながら、技術やアイデアをいかに「金」に結び付けているかをお話ししたのですが、「アイデアの壁」を突破するには日頃何をするのが良いのか、ちょっとまとめたいと思います。


最初に「情報収集」です。まず顧客のニーズをしっかりつかむことです。しかしまだ姿形もない新製品を顧客に提示して「これ御入用ですか?」とは訊けません。ここが難しいところですが、例えば、先述の製品であればこんな感じになるでしょうか。


  • コロナ対策製品の話であれば、

    • 企業の総務・管理部門を具体的な顧客と想定し、

    • 「コロナ対策」を「全ての社員や訪問者の入室時間とその時の体温を自動的に記録・管理したい」という所にまで深堀りできるか。

  • 金融機関の話であれば、

    • 「不正利用防止」→「窓口への来訪者が不審」に置き換え

    • 「ベテラン行員であれば表情や挙動で判断している」現場の状況を知り、

    • 「しかし属人的な技術で、皆にそれを実践させるのは難しい、なんとかしたい」というところまで深堀りできるか。

  • 乳幼児向けのウェブカムの話であれば、

    • 両親はたくさん子供の写真を撮りたい事を分かった上で、

    • さらに「乳幼児を撮影するより良いシャッターチャンス」に泣いているときも含まれる事を理解しているかどうか。


「情報収集」の2つ目は技術やその応用事例をたくさん見ることです。そうすることで、


  • コロナ対策製品であればBluetoohで通信可能な非接触型体温計の存在、

  • 金融機関であればAIで顔の映像を分析すれば、感情や心拍数を分析できること、

  • 乳幼児向けのウェブカムの話であれば、乳幼児の泣き声の原因がAIで分析できるのであれば、泣き声を検出することは出来そうだというAIに関する理解、


など、ニーズに対してどう技術を組み合わせれば良いのかが理解できている必要があると言えそうです。


次に情報発信とは逆に「発信」することです。他の人が情報収集しているときにその中に入れるように、自分の専門分野を発信します。その際は専門外の人でも分かるようにかみ砕いて説明する必要があります。そうすることで他人がアイデアの壁を突破する商品を作る際にその仲間に入れる可能性があります。


最後の「色々な分野との交流」です。「異業種交流」とも言えるのですが、「仕事ください」等のアピールではなく、「うちこんな面白いことをやっています」的な専門分野の分かりやすいアピールが良いと考えます。先ほどの「発信」と似ていますが、むしろ自分と違う分野と交流するために「発信」すると言えるかと思います。


自動車も工場設備もスマホ化?水面下で進む、5G以降の世界



今まで3つの台湾企業の製品を紹介しましたが、今後押さえておきたい技術動向として、「5G以降の世界」をお話ししたいと思います。まだまだ具体的な製品が出て来ていないので、私の想像や(知識不足による)妄想も入っていることを理解いただいた上で、聞いていただければと思います。


携帯電話の基地局設備のオープン化・ソフトウェア化



以前は携帯電話の基地局設備は一つのメーカーで揃えるのが普通でした。携帯電話のネットワークは様々な機器を接続して構成しますが、違うメーカーの機器では接続出来なかったためです。


O-RAN (Open Radio Access Network)では機器間の接続インターフェースを標準化し、公開しています。これにより違うメーカー間での機器接続ができるようになっています。またコンピューターの性能向上で、ハードウェアで高速化していた処理のほとんどをソフトウェアに置き換えること(ソフトウェア化・仮想化)ができるようになっています。


つまり携帯電話ネットワークの基地局設備という専用機器が限りなく普通のサーバーに近づいているということです。これは台湾の勝ちパターンに当てはめやすい製品になっているということでもあります。


写真は2018年のComputexにおける、台湾マザーボード・サーバ大手GIGABYTEの展示なのですが、表には5G関連展示としてスマート農業関係の展示を行っていました。しかしブース奥には、基地局向けサーバーという玄人向けの展示を行っていました。


当時は私も面白い5G関連製品はないかな・・・と探していたのですが、実際はこんな感じで携帯電話ネットワークの基地局設備というインフラ部分に台湾企業が食い込もうとしていたわけです。なかなかこういった変化は展示会の表面だけ見ても気付かないように思います。


eSIM



SIMは通信事業者情報や電話番号などのデータが書き込まれた小さなチップであることは御存じだと思いますが、eSIMはその中身を書き換えられるものです。差し替えを前提にしないので基本的には製品の基板上に部品として固定された状態で搭載されています。


例えばスマートフォンを使う場合、日本では日本の通信会社のSIMを挿して使い、台湾では台湾の通信会社のSIMを挿して使ったりしますが、eSIMの場合は物理的にカードを差し替えなくても、ネットワークを通じてeSIMの中身を書き換えられます。


EU域内では2018年に緊急時自動通報システムeCallが新車に搭載を義務付けられているのですが、車はEU内各国を走ります。よってeSIMを搭載し、走行している国に応じてeSIMの中身を書き換え、当地の通信会社に対応するようになっています。


eSIMは思った以上に影響が大きいように思います。普通のSIMは通信会社が発行する物でした。eSIMは機器メーカーなどが書き換え権限を持つことも可能です。


例えばiPhoneの最新機種の場合、中のeSIMはAppleに書き換え権限があり、国・地域によってはAppleが通信会社を選ぶ立場になるのではないかと思います。もちろんユーザーに自由に通信会社を選ばせるポリシーのeSIM発行者も出るでしょう。通信キャリアにとってはなかなか辛い立場です。


ローカル5G(プライベート5G)



ローカル5G(プライベート5G)は製造業など通信会社でなくても工場など自社の敷地内など限定で周波数の割り当てを申請できる仕組みです。5Gを信頼性の高い構内通信として使う仕組みです。


信頼性が高く・低遅延という5Gを使い、例えば工場内の製造設備やロボットなどを通信で連携させ、高度な効率化が出来るのではないかということで、台湾の大手製造業が周波数の割り当てを申請しています。


台湾の通信会社はローカルであっても5Gの基地局の運営は難しい部分があり、普通の5Gを使うほうが良いのではないかという姿勢を崩していませんが、こういった面も含めて工場内設備などに5Gの通信機能が搭載されていくのか注目です。


OTA (Over The Air)



無線通信を経由してデータを送受信し、ソフトウェアの更新などを行う技術です。スマートフォンの更新はまさしくそうですね。利便性と安全性の両立がポイントです。


先述のeSIMの更新もOTAと言えます。また最近は自動車にも通信機能が搭載され、テスラなどの電気自動車のソフトウェアの更新にOTAが使われている。


最近の流れとしては、マツダがディーゼルエンジンの燃費性能を落とさずに、最高出力を高めるソフトウェアアップデートを店舗で有料で実施しました。今後OTAの採用も見据えた動きのようで、このようにソフトウェアの不具合を修正する無料のアップデートだけでなく、性能や機能向上などの有料のアップデートというのもこれから多く出てくるでしょう。


将来的には横浜の中小企業で作られた設備にeSIMが搭載され、世界各地に出荷された後も5Gで装置の状態を監視、適宜メンテをしたり、性能向上のアップデートを有料で行うという世界もあり得ます。


まだ身近ではなく、将来像がぼんやりとしか見えない5Gなどの世界ですが、今から色々情報を追っておくと役に立つこともあるかと思います。もちろんIDEC横浜のセミナーなどを通じて私たちもアップデートしていきたいと思います。


最後に



最後になりますが、IDEC横浜では様々な台湾を含めた海外ビジネスに関するセミナー、支援を実施しています。また今回の内容も含め、全5回のセミナーは順次動画やウェブサイトで公開予定です。是非ご覧いただければと思います。


https://www.idec.or.jp/business/overseas/index.html


また本日のゲスト講師であった吉村さんは中小企業の海外進出を支援する「ASIA-NET」を主宰されています。こちらでも様々なセミナーが行われていますので、是非開催情報をご確認頂ければと思います。


http://www.asia-net.biz/


私の会社、パングーにおいても様々な情報発信をしております。よろしければ、ウェブの閲覧、FacebookやTwitterのフォローをいただけると大変うれしいです。


https://www.pangoo.jp/






 


公開日時
2022年10月26日(水)