事業継続計画(BCP)について

横浜医工連携推進コーディネーター
真鍋 緑朗

2020年4月24日(金)

Vol.36の私のコラム「医療機器製造業経営者の事業承継」において、BCP(Business Continuity Plan)を構築していく上で、自社工場が操業できなくなった時の代替生産拠点として契約した同業者と技術連携を深めてゆき、最終的にその会社にM&Aで会社を売却したことを書かせていただきました。
数年前までは、「BCPなんてうちは関係ない」という経営者の方が多くいらっしゃいましたが、昨年の台風15号、19号の被害をきっかけに中小企業でもBCPの必要性を感じた経営者の方が一気に増えました。そして昨今の新型コロナウィルスでさらにBCP構築が喫緊の課題になってきています。

想定しなければならない災害は、地震、台風、ウィルスと様々ですし、企業の業種や規模によっても取組み内容は異なりますが、社員をどう守るか、サプライチェーンをどう維持するか、というところでは同じです。
医療機器の場合は製造工場をすぐに変更することは薬機法で縛られており難しいですし、特殊な部品供給の場合であれば操業できなくなったからといって、顧客がすぐに調達先を他に替えてしまうことは少ないと思います。しかし逆に言えば、操業再開が遅れると医療現場に大きな迷惑をかけることになるので、最短での再開が必要となります。
また医療現場で使用されている装置などが被災した場合は、その修理などのサービス業務が発生しますし、状況によっては、機器の貸し出しや緊急な需要への対応など社会への貢献も必要になります。

これらへの対応を、出社できない社員がいる少ない陣容等の限られた経営資源で、どの業務を優先して行うかを常時より検討しておく必要があります。中小企業であれば社長がリーダーシップをとって指示していければよいですが、その社長が被災してしまっているときは、他の幹部社員が意思決定をしなければなりません。年に1度くらいは幹部社員も一緒にこの業務の内容やくくり方を見直しておくことで、社長と共通の認識を持つことができます。ただ優先順位をつけてマニュアルの中に表としてまとめていたとしても、実際に発生する災害は想定通りにはいかないので、私の策定したBCPでは「直感的な判断で決定して構わない」としてありました。そのためにも常時から頭の中で訓練しておくことが必要です。

BCPでは、減災などへの対策のほか、前述の重要業務の優先順位付け、目標復旧期間の設定、操業継続するための方法、代替拠点の検討、財務診断等、やるべきことはたくさんあります。BCPは策定したからといって一発で良いものができるものではないので、まずはネット等で公開されている雛形などで、不完全でもよいのでリスクの洗い出し・現状把握~財務診断(社長の感覚でよいので最悪の場合の復旧費用はどれくらいなのか仮試算)までやってみて自社のBCPのイメージを作ってみると良いと思います。そうすると、これから整備していかなければいけない課題がたくさんでてきます。それらを費用や手間を考えて、すぐにできることから数年かけてやることに順位付けをして整理しておきます。定期的会議のテーマにBCPも入れておき、これらの進捗状況を管理していきます。

日々の業務の中で取り組んでいけるものもあります。それは製造業では当たり前の「5S・VM(見える化)・多能工化」です。その人がいないとできない業務、担当者でないとわからない業務をいかに減らすか。同等の能力を持つ人の確保が困難でも、半分でも3分の1でも能力があれば、当該重要業務が全く実施できない状況は避けられます。誰が休んでもカバーできる体制が整えられ、休暇をとりやすくなれば、「ワークライフバランス」の実現にも有効です。また、多能工の育成は熟練工の技術継承にも結びついていきます。完成度が高まるほど「強い会社」にすることができます。

また、訓練とシミュレーションも大事です。やってみると想定していた手順ではうまくいかないことが判ります。それもできるだけ、実際に発生する状況に近いチャンスを利用したいです。例えば停電時の対応の検証であれば、工場の電気設備点検で実際に停電になるときなどにやってみるとよいです。

とにかくBCPは一度で良いものはできないので、欲張らず少しずつ完成度を高めて、自社の事業継続力を強化させていく地道な努力が必要です。「強い会社」を目指してください。

皆様各社の業容はさまざまですので、あまり参考にならないかもしれませんが、私の前職での十数年前からのBCPへの取組みを下記に掲載しておりますのでよろしかったら参照していただければと思います。

アールグラット株式会社ホームページ

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