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台湾最大の半導体関係展示会・見本市Semicon Taiwan 2023レポート
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台湾最大の半導体関係展示会・見本市Semicon Taiwan 2023レポート

Semicon Taiwan 2023
Semicon Taiwan 2023

熊本県への進出を予定する台湾半導体大手TSMCなどに関する報道など、日本でも台湾半導体業界に対する関心が高まったように思う。本記事では2023年9月に開催された台湾最大の半導体関係の展示会・見本市、Semicon Taiwan 2023の様子を紹介する。

開催規模・来場者数

Semicon Taiwan 2023 フロアマップ
Semicon Taiwan 2023 フロアマップ

主催者側発表では、3,000間、950社の出展があった。台北南港展覽館のホール1とホール2のほとんどがブースで埋まった。コロナ前の2019年を超える規模になっている。

Semicon Taiwan来訪者
Semicon Taiwan来訪者

また来訪者も62,000人以上となり、コロナ前を越えた。

台湾の半導体製造メーカーに世界から設備や原材料を売り込む

台湾の半導体関連展示会というとTSMCが出展するイメージをお持ちの方も多いかもしれないが、TSMCが出展することはあまりない展示会である(講演やフォーラムには参加している)。

Semicon Taiwanの出展者で恐らく一番多いのは台湾の半導体製造メーカーに原材料や設備、技術などを売り込む台湾内外の事業者である。

台湾半導体サプライチェーン概要図
台湾半導体サプライチェーン概要図

半導体製造は大きく「前工程」・「後工程」に分けられる。「IC設計」というのは簡単に言えば回路の設計を行う工程、「前工程」はシリコンで電子部品や回路を作る工程、「後工程」はシリコンウエハーから個々のチップを切り出して、端子をつけ、樹脂で覆ったりして、実際のICとして出荷するまでの工程を指す。

TSMCは「前工程」で大きなシェアを持つ会社であるが、「後工程」でも台湾企業が強く、大小合わせて多くの企業がある。また中国にある工場でも台湾系の工場は台湾本社の意向で購買先が決まることが多い。

現場のエンジニアと接触できるチャンス

Semicon Taiwan 2023 会場内の様子
Semicon Taiwan 2023 会場内の様子

またいつも非常に忙しい生産現場のエンジニアが新しい技術動向や製品を知るために来訪する展示会でもある。台湾南部の高雄や台南から新幹線に乗って会場に来るエンジニアも少なくない。

特に生産現場で使う設備や原材料、消耗品の新規導入に関してはこういった現場のエンジニアが手間と時間をかけて、試験計画を立て、試験を行い、その試験結果を整理し、顧客(製造委託元)に承認を取るなどの作業を行うことが多いので、キーパーソンとなる。

Semicon Taiwanの出展費用は1小間(3×3メートル)の標準ブースで202,230台湾元 (2024年)、1台湾元=4.5日本円で換算して約91万日本円と、台湾の他の展示会に比べてかなり高い。

しかし現場のエンジニアを始め、台湾の業界関係者と知り合う良いチャンスであり、これだけの費用を払う価値があるからこそ、出展者も増えて行っているのである。安くない費用のためか、出展者はそれなりに出展費用とその効果を考えて出ている企業が多いように思うが、それもSemicon Taiwanの専門性を高めるのに役に立っていると思われる。

Semicon Taiwanの出展案内には中国語は「精準行銷,創造最大效益 (正確なマーケティングで、最大の利益を)」、英語は「Spend Your Money Wisely (資金を賢く使おう)」と最初に記載されているのだが、Semicon Taiwanの本質を上手く表現できていて、納得である。

縁の下の力持ち、日本企業も数多く出展

浜松ホトニクスのブース
浜松ホトニクスのブース

浜松ホトニクスは1953年創業の光関連の電子部品や電子機器のメーカーで、光関連で高い技術力を持つ。Semicon Taiwanの展示では光学センサーによる検査ソリューションの展示がメインだったが、他にも「ステルスダイシング™」というレーザーによる独自の切断加工技術も持っている。

アルバックのブース
アルバックのブース

こちらは神奈川県に本社があるアルバック。半導体業界に限らず、ディスプレイ・電子・電気・金属・機械・自動車・化学・食品・医薬品業界及び大学・研究所向けの真空装置・技術に強みを持つ。

浜松ホトニクス、アルバック両者とも、経産省による「グローバルニッチトップ」の元となったドイツの経営思想家ハーマン・サイモンによる「隠れたチャンピオン」に選ばれた日本企業である。

Semicon Taiwanではこういった日本の一般消費者の知名度が高いわけではないが、専門性を高め、世界で大きなシェアを占める日本企業が多数出展する。

日本の地方自治体の出展も

山口県のブース
山口県のブース

山口県(公益財団法人やまぐち産業振興財団)は2022年も渡航規制がまだ残っている中、Semicon Taiwanに出展し、2023年は2年連続での出展となる。展示内容に関してもかなりSemicon Taiwanの展示会の性質を理解しているように見えた。

その理由の一つとして、2年連続で出展をしていることが挙げられる。世界のファブレス半導体メーカーのオーダーが集まる台湾の半導体業界の情報をタイムリーに入手し、また台湾の業界関係者と繋がりを持つ意味では重要であると考える。

また県内への工場立地や進出を主目的としていないことも良い判断ではないかと思う。現在でも台湾企業にとっては日本にわざわざ進出するより台湾内に工場を建てるほうが合理性が高いと思われる。よってTSMCの熊本進出の再来を狙うのは野球で言えばホームランばかりを狙うようなもので可能性が低いように思う。

山口県のブース
山口県のブース

では何を目的にしているかというと、県内で以前より日本の半導体企業の下で技術を磨いた中小企業の技術や製品の台湾への売り込みである。日本から半導体製造の現場が台湾にかなり移った以上、台湾に同じものを売り込んでいくのが野球でいう「ヒット」につながる可能性が高い。

日本の中小企業の出展も

六甲電子のブース
六甲電子のブース

六甲電子は兵庫県西宮市に本社を置き、シリコンウエハーや特殊ウエハーの研削・研磨などの受託加工を行っている会社である。こういった加工は設備・消耗品・設備の設定値などの組み合わせで加工の可否や品質が決まるため、特に加工が難しいウエハーに関してはノウハウの蓄積が非常に重要である。

筆者が知る限り六甲電子は少なくとも2019年よりSemicon Taiwanに毎年1小間(3×3メートル)のブースで出展している。単発で大きなブースを出すよりも1小間のブースで良いので、複数年継続して出展する方が台湾の業界内で知名度を上げるには有効であると思う。

繰り返しになるが、日本から半導体製造の現場が台湾にかなり移った以上、台湾に同じものを売り込んでいくのが「ヒット」につながる可能性が高いのである。

また技術動向や顧客のニーズをいち早くつかむためにも現場に近いところで交流をして、情報収集したほうが良いわけで、その点からも半導体業界に限らず今まで大手企業の下で技術力を磨いてきた日本の中小企業は積極的に海外の展示会に参加(視察・出展)すべきだと思う。

韓国企業や中国企業も数多く出展

Hanmi Semiconductorのブース
Hanmi Semiconductorのブース

Semicon Taiwanでは韓国メーカーも出展している。写真はHanmi Semiconductor(ハンミ半導体)のブースだが、同社は後工程向けの設備を製造しており、台湾も含め世界のメーカーで採用されている。

北方華創のブース
北方華創のブース

Semicon Taiwanでは大手の中国設備メーカーも出展している。台湾の報道によると、最近の台湾との関係、米国の対中半導体輸出規制強化などもあり、出展は控えめであったが、中国の大手設備メーカーも中国国内だけでなく、国外の顧客開拓を求めて、Semicon Taiwanに出展しているという。

韓国や中国企業の製品は、価格だけでなく、性能も含めて、その競争力は侮れない。先ほどの話と重複するが、こういったグローバル市場の動向をより早くつかむためにも海外の展示会に出展したり、視察するのは必要なように思う。

後工程受託加工サービスの展示

久元電子のブース
久元電子のブース

筆者が気になった最近の変化としては後工程受託加工メーカーによる展示が目立ってきたことである。久元電子は台湾や中国に工場を持ち、LED、LCDドライバーIC、RFIDなどの受託加工に注力しており、独自の地位を築いている。

こういった後工程受託加工サービスは主にファブレスICメーカーやIC設計業者などにアピールしているものと思われるが、最近は独自の半導体を設計し、量産を目指すスタートアップが徐々に増えてきており、そういう潜在顧客にアピールしているのかもしれない。

日本からこんな面白い出展も

1インチのウェハー(PMTのブース)
1インチのウェハー(PMTのブース)

後工程受託加工サービスだと、福岡県のブースに出展していたPMTが「PMT Package Foundry®」という少量多品種の後工程を受託するサービスを展示していた。まさしくターゲットは独自半導体の少量試作・生産を目指すスタートアップなどだという。

ブースには1インチのウェハーが展示されていた。PMTでは試作サービス用に直径1インチ、少量生産サービス用に6インチの生産ラインを用意しているという(シリコンウェハーの場合、面積が増えると生産効率が高まることから台湾では8インチや12インチを使うのが普通)。

例えばスタートアップが独自のICを試作、もしくは少量生産したい場合、前工程の方は1枚のウエハーに複数社のチップを焼きこむことで、コストを割り勘する「シャトル・サービス」というのがある。

しかし後工程は通常シャトル・サービスには含まれず、後工程の受託会社や研究所などに後工程を頼むと高額な費用がかかるのがIC試作のネックとなっていた。そこに目をつけ、比較的廉価な受託サービスを提供しているのがPMTである。

普通のICとFOWLP
普通のICとFOWLP

またPMTではICをより小さく・薄く作ることができる、後工程の技術、WLCSP(Wafer Level Chip Size Package)やFOWLP(Fan Out Wafer Level Package)の試作・少量生産にも対応している。

詳しい技術解説は省くが、前工程の技術を活用して薄膜の「再配線層」を作り、その下にはんだボールを付けることで、通常のICより小型化・薄型化を実現する技術である。プリント基板にICを実装する際も小さい面積で実装が可能であり、電子機器の小型化には不可欠な技術である。

PMTは日本の産業技術総合研究所が提唱し、経済産業省の国家プロジェクトとして勧められた半導体の「究極の多品種少量生産」を目指したミニマルファブ(Minimal fab)に参加し、ミニマルファブ用の装置を開発した経験があり、その経験や設備を活かして多品種少量生産の受託サービスを行っているという。

ピンチとチャンスは表裏一体

日本では半導体製造の現場が国外に移転したことに対する危機感を強調する報道が多い。それは間違っていないと思うが、国外に工場が移転したのは当時の経済的合理性に基づく経営判断であったとも思う。なによりも中小企業にとっては、今何をすべきかが重要であるかと思う。

今後日本国内に工場が戻ってくるかは分からないが、まずは中国にある工場も含め、世界から量産の委託を受けている台湾企業の勢いを自社にどう取り込んでいくかが重要であると思う。

日本企業の下で技術力を蓄積した中小企業は、自社の技術に対するグローバルなニーズを知るためにも、積極的に台湾を含めた海外の展示会・見本市に視察・出展していただきたいと思う。

参考文献

※閲覧日はいずれも2023年10月06日

IDEC横浜海外サポートデスク

IDEC横浜・海外サポートデスク
IDEC横浜・海外サポートデスク

筆者について

IDEC横浜・海外サポートデスク(台湾)
Pangoo Company Limited 代表 吉野 貴宣
https://www.pangoo.jp/

注意事項

本レポートの内容は筆者個人の見解であり、IDEC横浜を代表するものではありません。また可能な限り注意を払って調査・考察しておりますが、万一誤りや不十分な点がございましたらご容赦ください。

  • SEMICON Taiwan (https://semicontaiwan.org/)
  • 台北半導體展 陸廠來了 | 大陸政經 | 兩岸 | 經濟日報 (https://money.udn.com/money/story/5603/7424709)
  • 浜松ホトニクス (https://www.hamamatsu.com/jp/ja.html)
  • 株式会社アルバック (https://www.ulvac.co.jp/)
  • 六甲電子株式会社 (http://www.rokkodenshi.com/)
  • 久元電子 (https://www.ytec.com.tw/)
  • 【SEMICON Japan 2022 未来を探る視点1】半導体産業の主役へと躍り出た後工程技術、日本が先端開発の最前線(https://www.semiconjapan.org/jp/blogs/semiconjapan2022-perspectives-on-the-future-1)
      IDEC横浜では台湾現地にサポートデスクを設けて、横浜市内中小企業の台湾ビジネスに関するサポートを行っております。是非IDEC横浜にお問い合わせください。

公開日時
2023年10月20日(金)