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台湾コラム Computex Taipei/InnoVEX 2023レポート、「4年ぶり」の開催
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Computex Taipei/InnoVEX 2023レポート、「4年ぶり」の開催

Computex Taipei会場にてComputex Taipei会場にて

Computex Taipei/InnoVEXは2019年以降、2020年と2021年はリアル開催は中止、2022年は開催されたものの、新型コロナ(COVID-19)の関係で海外からの来訪者はそれほど見込んでの開催ではないと思われるため、今年開催が日本から見ると「4年ぶり」の開催ということになる。その展示内容の一部を簡単に紹介する。

Computex Taipei・InnoVEX の概要

GIGABYTEの展示GIGABYTEの展示

Computex Taipei (コンピュテックス・タイペイ、台北國際電腦展、台北国際コンピュータ見本市)は台湾・台北市で毎年5月下旬から6月上旬に行われているコンピュータ・IT関連の見本市・展示会である。

1981年、勃興期にあった台湾のコンピュータ企業が製品を展示する場として始まった。台湾のIT産業の成長に伴い規模も拡大され、今ではアジア最大、世界でも有数の規模を誇るIT関係の展示会で、主要なPCや半導体メーカーが参加している。

台湾には、ハードウェア製造業者が多数存在するため、COMPUTEXは特にハードウェアの技術動向を見るのに適した場となっている。

また2016年からComputex Taipei内のサブ展示会として台湾を中心に世界のスタートアップを集めたInnoVEXを同時開催している。このInnoVEXも台湾のハードウェア製造能力を活かしたスタートアップが多い。

開催規模・来場者数

Computex Taipei会場にてComputex Taipei会場にて

主催者側発表では、26か国より約3,000小間、1,000社の出展があった。台北南港展覽館のホール1の1階と4階、ホール2の1階がブースで埋まった。2019年には及ばないものの、それなりの規模にまで戻ったと言える。

Computex Taipei来訪者Computex Taipei来訪者

また海外からの来訪者はコロナ前の2019年の数字をも上回った。会場でも日本人を始めとする海外からの来訪者の多さを感じた。

日本からの出展

PARKSの展示PARKSの展示

InnoVEXでは日本台湾交流協会とPARKS(パークス、九州・沖縄の大学を中心としたスタートアップ・エコシステム)の2団体が様々なスタートアップを引き連れて参加した。2団体とも単純な展示ではなく、ステージでのプレゼンテーションへの参加も義務付け、積極的な発信を主眼にした参加だったのがポイントである。

そういった中で昆虫のカイコの体内で新薬となるタンパク質を生成するという九州大学の技術を元に創業した「KAICO」がInnoVEXのピッチコンテスト(起業家が投資家などの審査員に対して自らの事業計画を発表するコンテスト)において決勝の10社に勝ち残っている。

九州大学で100年もの間、研究のため飼い続けてきたカイコの中から探し出した最適な系統によって、大腸菌などでは難しい構造が複雑なタンパク質を効率が良く生成できること、また製薬会社へのタンパク質供給という製薬会社と協業できるビジネスモデルを目指していることも評価されたのではないかと思われる。

台湾とは近いのにもかかわらず、台湾の展示会において日本が出展側・発信側に回ることはまだまだ少ないように感じる。しかし日本のスタートアップなどの技術が劣っているわけではないと思う。是非こういった場に出ていただき、発信能力を磨いていただくとよりビジネスのチャンスも広がるのではないかと思う。

影の主役?NVIDIA

NVIDIAの展示NVIDIAの展示

2017年には日本の雑誌で「謎のAI半導体メーカ」とタイトルに記載されるほど、日本人には馴染みのない半導体メーカであったNVIDIA(エヌビディア)だが、今年はAI関連の演算に欠かせない半導体ということで色々な企業のブース提携先としてNVIDIAのロゴが掲げられるなど、NVIDIAは陰の主役であったと言える。

今年度はNVIDIA自身のブースはかなり小さく、展示内容もNVIDIAの製品を採用している会社のブースを紹介するなど、パートナーを立てた展示内容であったが、会期1日前の5月29日に行われた共同創業者のジェンスン・フアン(Jen-Hsun "Jensen" Huang、黃仁勳)による基調講演は久しぶりの故郷での講演だったこともあり(彼は台湾・台南生まれ)、大盛況であり、こういったところからもNVIDIAへの注目度が推し量れる

半導体設計関係の展示

Ranictekの展示Ranictekの展示

NVIDIA以外にも半導体設計関係の展示が増えてきた感じがある。InnoVEXのピッチコンテストでは決勝に残った10者のうち、以下の3社が独自の半導体設計・製造を目指すスタートアップであった。

  • Blumind (カナダ):超低電力AIアナログ半導体
  • DEEPX (韓国):NPU(Neural Processing Unit、AI処理専用半導体)
  • Ranictek (台湾):5G/6G基地局用専用半導体

そこまで大きく展示していないが、例えば自社センサー製品に組み合わせて使うAI処理専用半導体などをおそらくFPGA (Field-Programmable Gate Array、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路)で組んで展示している場合もあり、有名メーカが量産した半導体をソフトウェア側でカスタイズして使うのか、一歩踏み込んで半導体というハードウェアからの最適化を図るのか、今後も半導体に関しては様々なアプローチが見られそうである。

自動車関連の展示

KopherBitの展示KopherBitの展示

筆者の目から見ると2023年は、電動自動車などの関係、また業界団体としても電子製品で培ってきた量産力で自動車産業も開拓するという方針もあることから、自動車関係のブースが少し増えたのではないかと感じた。

例えばKopherBitは台湾政府の大手研究機関、工業技術研究院からスピンオフされたスタートアップであり、電動自動車も含めた車載ソフトウェアプラットフォームを開発している。最近はこういったプラットフォームの標準化団体(厳密にはパートナーシップ)として「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」というのがあるが、これにも準拠している。

担当者に聞いたところ、例えば、台湾内で走っている電動バスの多くが同社のプラットフォームを採用しているとのこと。台湾ではバスは車体メーカーがシャーシやエンジンなどを外部から調達してバスを製造している、こういったところに供給しているのだと思われる。

長期的な観点で技術開発に取り組む台湾企業も

Mega 1の展示Mega 1の展示

Maga 1は台湾のプラスチック射出成形の中堅企業傘下で、MEMSミラーを使った、「レーザー走査式」のプロジェクターモジュールの研究開発を行っている。液晶パネルや投影レンズを必要としないため超小型にできる特徴があり、また投影時にフォーカス調整が不要で、湾曲したヘルメットや眼鏡にも投影できる。これらはヘッドアップディスプレイやスマートグラスなどのデバイスには欠かせない技術である。

Mega 1は日本企業との協業を設立当初から続け、2021年には日本でレーザー応用モジュールやARモジュール開発を行い、光学部品に強い、日本のスタートアップであるバーインテックにMega 1の親会社が主要株主として出資、レーザーを投射する先の光学部品も含めてワンストップで技術や製品を提供できるようになった。現在、Mega 1の幹部には日本人も在籍している。

スマートグラスの改良を続け、商機を見出す台湾企業

Jorjinの展示Jorjinの展示

Jorjinは元々SiP (System In a Package)という複数の半導体チップを1つのパッケージ内に封止する技術を持つ会社、平たく言えば、電子製品を出来るだけ小さく作る技術やノウハウを持つ会社である。この技術を活かし、ここ数年はスマートグラスに取り組み続けている。

当初の製品は充電池の性能や重量などでかなり大きく、重かったが、年々小型化・省電力化が進み、Computexで優秀商品に贈られる「Best Choice Award」を複数回受賞するなど、製品の完成度が高くなっているのを感じる

また過去は必ずしも最適な用途が見つけられていなかったように思うが、最近は産業分野、特に教育・訓練への活用に活路を見出している。この会社も複数年にわたって研究・開発に取り組んだからこそ、台湾のスマートグラスの第一人者になっている。

宇宙・衛星関連事業に取り組む台湾スタートアップ

Liscotechの展示Liscotechの展示

長期的に技術開発に取り組む台湾企業として、宇宙衛星向けというニッチ分野に絞って研究・開発を続けているコンピュータ・カメラモジュールなどを開発・製造しているLiscotechを採り上げる。

台湾の衛星開発関係の研究機関だけでなく、米国の衛星画像スタートアップのSatellogic、NASA(アメリカ航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)、大学など、様々な顧客を開拓している。

宇宙衛星向けは縁があって受けた案件に始まったが、出荷台数は非常に少ないが、通常用途よりかなり高い価格で受注できる、ただし高加速度や熱、真空、放射線などへの対応が必要という恐らく中小企業にしかできない事業領域と言える。

ただし、今後6Gの時代になると、スマートフォンから低軌道(高度数百〜2000km前後)衛星と直接通信できるようになると見込まれており、そうなると衛星が我々により身近な存在になる。今後が楽しみな企業ともいえる。

IoTは導入・使いやすさへの工夫がポイントか?

Beeinventorの展示Beeinventorの展示

Beeinventorは香港のスタートアップだが、現在は台湾や日本の福岡に拠点を持っている。特に建設現場へのIoT導入をメインにしており、カメラや各種センサーを搭載した「スマートヘルメット」を作り、作業員の健康状態や所在、目の前の光景等を確認することができる。また事務所でラックにかければこまめに充電も可能である。

作業員のほぼ全員が装着するヘルメットにセンサーなどを搭載するというアイデアが導入のハードルを下げていると思われる。今後IoTが当たり前になっていく中で、こういった様々な現場に合わせどうスムーズに導入できるかがポイントになっていくと思われる。

ウェアラブル用スマートテキスタイルは着実に進歩

台湾智慧型紡織品協会の展示台湾智慧型紡織品協会の展示

近年、実用化に向けて着実に進歩してきたと筆者が感じるのが機能性を持たせた繊維「スマートテキスタイル」である。簡単に言えば布の中に電極や導線を入れることで心電や筋電を拾って服の上につけた電子デバイスで計測したり、また逆に電流を電子デバイスから流すことでマッサージを行うことができる。

台湾では世界のブランドを顧客に持つ大手のアパレル製造代行もスマートテキスタイルへの参入を行っており、デザインなども洗練されてきている。また服の上につける電子デバイスが電池の進歩や小型化・低消費電力化により、より小さく・軽くなり、身に着けても負担にならなくなってきている。

ビジネスモデルと技術の両輪

Visual Noteの展示Visual Noteの展示

イタリアのスタートアップ「Visual Note」では後付けで指板(フィンガーボード)に多数のカラーLEDが付いたフレキシブルな基板をつけることができる。曲に合わせてこのLEDで指を押さえる場所を示すことができる。日本の「音楽ゲーム」や「リズムゲーム」と似ている。

このスタートアップの面白いところはこのLEDの基板(69ユーロ)を売るだけでなく、スマホやタブレットのアプリに様々な練習曲を追加していくことで、毎月定額のサブスクリプション課金モデルを実現したことである。

決して難しい技術を使うことがスタートアップの条件ではない。現場のニーズをとらえ(創業者もギターが好きで始めたスタートアップ)、維持できるビジネスモデルをどう作るか、この辺はビジネスに対するアイデアも重要である。

ローカル5Gは普及するのか?

Askeyの展示Askeyの展示

新型コロナ前に筆者が「これが来るのではないか」と思っていたトレンドに「ローカル5G(プライベート5G)」があった。「ローカル5G」の詳細な説明は省くが、企業や組織が電話の割り当て申請をして使うことができる、ビル内・敷地内専用の5Gなのだが、これに関する展示が余り見られなかった。

まだ結論を出すには早いかもしれないが、「ローカル5G(プライベート5G)」は電波の割り当て申請が必要なことなど、そのネットワーク構築は一定のハードルがあるため、思ったより使われないのかもしれない。

台湾企業は世界を相手にしているため、技術トレンドには敏感であるが、全てのトレンドが事前の予想通りにビジネスになるとは限らない。展示会にはあまり売れないものを出展しても意味がないわけで、台湾の展示会を毎年のように見るとある程度の技術トレンドも追うことができるのである。

見本市としてのComputex Taipeiも健在

Unifiveの展示Unifiveの展示

技術やビジネスモデルの話が多かったが、電子製品や部品、モジュールの見本を並べて、受注を待つ、昔ながらの見本市スタイルの出典はComputex Taipeiではまだまだ健在である。写真は日本のACアダプター、スイッチング電源メーカー、ユニファイブのブースである。

技術やビジネスモデルの話が多かったが、電子製品や部品、モジュールの見本を並べて、受注を待つ、昔ながらの見本市スタイルの出典はComputex Taipeiではまだまだ健在である。写真は日本のACアダプター、スイッチング電源メーカー、ユニファイブのブースである。

仮に横浜市内の中小企業がComputex Taipei/InnoVEXに出展する場合、こういったエリアで部品や技術を見せた方が潜在顧客に近い可能性もある。どういう見せ方が良いかは是非IDEC横浜の専門家とも相談頂くと情報が得やすいかと思われる。

参考資料

※閲覧日はいずれも2023年8月10日

  • 111年度股東會年報 (http://www.megaforce.com.tw/upload/media/ir/stock_report/2023/2023Annual%20Report.pdf)
  • 捷揚航電》從不懂衛星為何物 到通透航太工業電腦 門外漢老總 打進南美商用衛星奮鬥記 - 今周刊 (https://www.businesstoday.com.tw/article/category/183015/post/202104070027/)

IDEC横浜海外サポートデスク

IDEC横浜・海外サポートデスク

 

IDEC横浜では台湾現地にサポートデスクを設けて、横浜市内中小企業の台湾ビジネスに関するサポートを行っております。是非IDEC横浜にお問い合わせください。

筆者について

IDEC横浜・海外サポートデスク(台湾)
Pangoo Company Limited 代表 吉野 貴宣
https://www.pangoo.jp/

注意事項

本レポートの内容は筆者個人の見解であり、IDEC横浜を代表するものではありません。また可能な限り注意を払って調査・考察しておりますが、万一誤りや不十分な点がございましたらご容赦ください。


公開日時
2023年8月15日(火)