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タイビジネスの「ニューノーマル」適応 Part 3
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海外現地レポート

タイビジネスの「ニューノーマル」適応 Part 3

 タイでの新たな規範「ニューノーマル」がどのように形成されていくか、ビジネスを「ニューノーマル」に適合させるために何を考えるべきか。最終回となる今回は、製造業、BtoB型ビジネスにおける変化と、日本企業の海外拠点運営への影響について述べる。

 新型コロナウィルス感染症により世界経済が急激に減速する中、徹底した水際対策によって国外からの流入を防ぎ、ウィルスの抑え込みに成功していると評価されるタイでも、経済への影響は甚大であり、失業率の上昇や業況感指数の下落など具体的な数字となって表れている。カシコン銀行の調査部門カシコンリサーチセンターが5月に実施した調査では、バンコク首都圏の失業率は9.6%に上り、うち新型コロナウィルスの影響による失職が6割を占めているという結果が出た。また、バンコク日本人商工会議所が在タイ日系企業を対象に本年5-6月に実施した2020年上期景気動向調査において、2020年上半期の業況感DI(Diffusion Index)は▲69と、1971 年の調査開始以来、急激な円高進行を生んだプラザ合意前後の1985 年上期の▲76、下期の▲91 に次いで3 番目に大きいマイナスの数字であることからも、その経済へのインパクトの大きさが伺える。

 製造業、非製造業を問わず、新型コロナウィルスによる影響としてもっとも大きいのは「売上減」であるが、雇用人員数の多い製造業にとっては、労働者管理も大きな課題となる。近年の人件費上昇トレンドによって既に工場自動化に取り組んでいる企業も多く、「ニューノーマル」は省人化の流れを加速させるであろう。しかし、この状況下での急激な自動化推進は労務問題の火種ともなりえることに注意が必要である。極めてオーソドックスな手法であるが、従業員との対話を十分に行い労使双方の心の距離感を「密」に保ちながら、改革を進める必要がある。

 BtoBビジネスにおける営業活動手法も変化しつつある。これまでタイの日本人社会では、昨今の駐在員の若年化に伴い変化しつつあるとはいえ、ゴルフや飲み会等を商談の場とする風習が色濃く残っていた。ニューノーマル下では、処世術に長けた営業マンに代わり、SNS等による情報発信を正しく行うことのできる、ITリテラシーの高い従業員を重用する場面が増えるだろう。

 また、今回の新型コロナウィルス禍がもたらした変化のひとつに、人の移動の減少がある。日本企業の海外拠点管理において、海外駐在員派遣のリスク(個人としてのリスクと会社としての派遣リスク)を減らすためには、海外転勤者を減らし、現地採用者による拠点運営に舵を切るよりほかない。

 新型コロナウィルス感染症の発生は、このようにいずれも基本的な海外拠点運営における課題をあらためて企業に突きつけたといえる。「ニューノーマル」時代のビジネス・拠点運営は、全く新しい手法・形態への転換ではなく、むしろ、従来からの拠点運営の理想を追求した延長線上にあるのではないか。

横浜ビジネスエキスパート
日本テピア株式会社 石毛寛人
2020年8月


公開日時
2020年8月25日(火)