シンクランド(株)のOCT光源開発の取り組み

横浜医工連携プロジェクト アドバイザー
森尾 康二

2016年11月25日(金)

前回のコラム(4)においては、医療機器・医療技術開発を行うに際しての環境条件についてお話をしました。開発の道筋についてご理解を頂けたのではと思っています。そこで今回は我々、が今取り組んでいるいくつかの具体的案件の中から、開発の典型ともいえる案件についてご説明させて頂きます。 この案件は:

開発者 シンクランド(株) 代表取締役 宮地邦男
開発案件 整形外科用OCT装置
助成元 経済産業省「平成28年度地域中核企業創出・支援事業管理(公財)横浜企業経営支援財団」

OCT(Optical Coherence Tomography)は近赤外線の干渉を利用して生体の表面近くの組織を断面として描出することが出来る技術です。この技術は眼科分野において、網膜の断層像を撮影して黄斑変性症、網膜剥離、黄斑円孔等、網膜の疾患を正確に診断する手段として広く利用されてきています。眼科以外にも動脈血管内の断層像から血栓の種類や組織を診断する用途にも使われていますが、その用途の90%以上は眼科分野に限定されているのが現状です。開発の主体になっているシンクランド(株)は光に係る技術開発を手掛けてきており、特に「広帯域波長のOCT光源」の開発では世界の先端を走っています。この延長線上にて、今回整形外科用のOCT装置の開発を手掛ける事となりました。今回の開発に際しては、工学医学サイドでたくさんの大学に協力を頂いています。

そこで次に我々が目指しているのは整形外科分野の中でもとりわけ高齢化に伴って発生する事が多い変形性膝関節症の正確な診断です。現在、膝関節症はCTやMRIによる非侵襲的画像診断、更には関節鏡を用いた侵襲的診断が行われていますが、いずれの場合も外形の診断しか行われていません。我々はOCT技術を用いて膝軟骨や半月板の断面像から組織の評価が出来るまでの技術開発に取り組んでいます。

以上が本プロジェクトの概要です。

皆様に是非ご理解頂きたい本プロジェクトの真髄は、

  1. 画像診断の分野ではX線を用いた一般撮影やCT、核磁気共鳴の原理によるMRI、放射性同位元素を利用したPETやシンチグラム等、臨床の場で広く利用されています。しかしこれらの診断方法はメディア(X線、核磁気、放射性同位元素)そのものに未だ不安が残されています。将来を見通せば超音波とOCTの伸び代が大きいと考えています。特にOCTは微細な組織までを描出できる能力があって、大きな期待が持てると思っています。
  2. このOCT技術は日本発の技術です。山形大学の丹野先生が世界に先駆けて原理を開発されました。(しかし残念ながら世界で初めての眼科分野での商品化に成功したのはアメリカのベンチャー企業でした。)こうした経緯もあってOCTの基礎となる光干渉の技術の開発は、日本が世界のトップを走っています。眼科用OCT装置開発の轍を踏まない様にアプリケーション開発が急がれていて、我々はその一翼を担っています。
  3. その中にあって本プロジェクト開発の中心となっているシンクランド(株)は一ベンチャー企業にしかすぎませんが宮地社長の確固たる意志と優れた技術の組み合わせのもとで、これまで世の中にない医療機器の開発に取り組んでいます。

以上の3点です。
我々横浜医工連携事業では、このほかの案件を拾い上げ育てていきたいと考えています。

以上

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