大廃業時代~日本のものづくり技術を継承するには

横浜医工連携推進コーディネーター
木下 綾子

2019年11月25日(月)

急に気温が下がり、街では風邪をひいて咳をする人が増えています。皆さまも体調には十分お気を付けください。

さて、「痛くない注射針」を製造する岡野工業が廃業を決めたというニュースは記憶に新しいですね。岡野工業は、この業界では有名な中小企業で、テルモが設計した「痛くない注射針」を唯一実現できるだけのアイデアとオンリーワンの技術を持っています。通常は金属管を細くして注射針を製造しますが、「痛くない注射針」は極薄に加工したステンレスの板金を巻いて加工することで、2005年に製品化。もちろん現在も黒字経営だそうです。廃業を決めた理由は、後継者不在。社長のお二人の娘さんは事業を承継しませんでした。

東京商工リサーチの「2018年休廃業・解散企業動向調査」によると、2018年に休廃業・解散した企業は4.6万者ありました。2016年の東京商工リサーチの調査によると、2016年に休廃業・解散した企業は2.9万者あり、そのうち約半数が黒字にもかかわらず廃業を選択しているのです。

休廃業・解散 倒産件数 年次推移

中小企業庁の「中小企業白書 2019」によると、事業を継続しなかった理由として、58.5%が「もともと自分の代で畳むつもりだった」と答える一方、19.8%が「資質がある後継者候補がいなかった」、41.6%が「事業の将来性が見通せなかった」、19.4%が「事業の足元の収益力が低かった」と回答しており、早めに事業承継に取り組むことで解決できた可能性が高いのではないかと考えられます。

事業を継続しなかった理由

資料:みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018年12月)
(注)1.引退後の事業継続について「継続していない」と回答した者について集計している。
   2.複数回答のため、合計は必ずしも100%にはならない。

そこで、事業継続の道として注目されるのがM&Aです。技術革新のスピードも速くなっている昨今。中小企業の中には新陳代謝が必要な企業もあるのは確かですが、技術がある企業は継続の道を模索していかなかなければ、日本の国際競争力の低下につながります。

輸入が多い医療機器産業ですが、国産のシェアを高めるために全国で医工連携が活発化しています。これまでは、どちらかというと新規参入の方が注力されていたように感じますが、これからはすでに参入しており、技術のある企業の事業継続を支援する取り組みも必要になるでしょう。第三者承継のハードルを下げ、技術を途絶えさせないように支援していきたいですね。

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