医療機器の法規制について

横浜医工連携プロジェクト アドバイザー
山越淳

2019年1月25日(金)

既にご存じの方も多いと思いますが、2014年11月25日に施行された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、医薬品医療機器等法)では、診断・治療等を目的とした単体プログラムは、“医療機器プログラム”として、他の医療機器(ハードウェア)と同様に規制の対象となっています(医薬品医療機器等法 第2条第8項,第13号等)。そして、この医療機器プログラムの該当性を判断する際の考え方が、通知(「プログラムの医療機器への該当性に関する基本的な考え方について」(平成26年11月14日付け 薬食監麻発1114 第5号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知))にて示されています。

この通知では、医療機器プログラムへの該当性を判断する際の基本的な考え方が示されるとともに、「(1) 医薬品医療機器等法において医療機器に該当するプログラム」(規制の対象となるプログラム)と「(2) 医薬品医療機器等法において医療機器に該当しないプログラム」(規制の対象とはならないプログラム)が例示されています。

昨年末(平成30年12月28日)にこの通知を改正する通知が発出され、「(2) 医薬品医療機器等法において医療機器に該当しないプログラム」の例示が追加されています。具体的には、規制の対象とはならないプログラムの例示として、“④ 糖尿病のような多因子疾患の一部の因子について、入力された検査結果データ特定の集団の当該因子のデータを比較し、入力された検査結果に基づき、当該集団において当該因子について類似した検査結果を有する者の集団における当該疾患の発症確率を提示するプログラム、又は特定の集団のデータに基づき一般的な統計学的処理等により構築したモデルから、入力された検査結果データに基づく糖尿病のような多因子疾患の発症確率を提示するプログラム”、や、“⑤ CT 撮像装置や歯科用の3Dスキャナ等から得られた患者の歯列形状のデータを用いてコンピュータ上で仮想的な歯列模型を表示し、有体物の歯科模型から得られる情報と同等の情報(歯列の現在の形状や歯の位置関係や角度、距離等)のみを提示するプログラム(歯列模型表示プログラム)”が追加されています。(詳細は当該通知をご参照ください。)

医療機器の場合、規制の概要は理解できても、当事者として具体的に何をすれば良いのかなど、実務として行うべき内容については、実は法律等を読んでも判断が難しい事が多く、その詳細は、今回御紹介した様な通知で説明されていることが多くあります。一方、この通知も、その内容を確認しても依然として実際に行うべき事項や、規制の境界となる部分が分かりにくかったりすることが多くあります。

以下は私見ですが、これは医療機器の種類が非常に多岐にわたるため、医療機器を扱う全ての企業に適用可能な表現をすることが困難であることに加え、医療機器等の特性を加味し、ある程度の裁量の範囲で判断できる様にされているからではないかと思います。医療は、患者が受けるベネフィットとリスクを比較考量した上で、診断や治療方法が選択されるものであり、医療機器や医薬品も同様に、医療機器等によって患者が得られるベネフィット(効果等)が、リスク(副作用や不具合等によって患者が受ける被害等)を上回るか否かによって様々な判断が行われます。一方、医療技術は日々進歩しており、例えば数年前まではリスクの方が高いと判断された医薬品や医療機器等であっても、他の技術の進歩や知見の蓄積によって、異なる疾患や新たな技術を付加した技術として採用されることもあり得ます。そのような技術の進歩等にも柔軟に対応するためには、規制当局(及び企業)が、ある程度柔軟に対応できる様な形で”境界”が定められていた方が、迅速な対応も可能となり、結果的に法律の目的に合致することになると考えられているのではないかと思われます。

医薬品医療機器等法は、他の法律と比べると曖昧な部分が多く、時に企業側の解釈とは異なる判断がされることもあったりして対応が難しいと感じることもありますが、このような医療の特性などを考慮すると、ある程度妥当な施策の一つでもあるのではないかと考えられます。そして、企業としては、規制のそのような背景も理解した上で、規制に対する対応を戦略的に考えていくことが、医療機器を迅速に上市し、広く使用してもらうための必要な戦略の一つと思われます。

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