東京医科大の不正入試から見える医療現場の問題

横浜医工連携プロジェクト アドバイザー
木下 綾子

2018年8月27日(月)

今年は大変な猛暑でしたが、暑さも落ち着き秋の気配が近づいてきました。

つい先日、東京医科大学の医学部医学科の一般入試において、女性受験者の得点を一律減点し、女性の合格率を3割前後になるように調整していたことが報道されました。女性差別だ、という声があがりましたが、そもそもなぜ女性合格者数を抑える必要があったのでしょうか。

まずはデータを見てみましょう。平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省)を見ると、女性医師の割合は29歳以下が35.5%、30~39歳が30.1%、40~49歳が20.4%、50~59歳が13.0%、60~69歳が9.7%、70歳以上が9.6%となっており、年代が若くなるにつれ女性割合が高くなっています。

平成24年 年代別女性医師の割合(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

平成24年 年代別女性医師の割合(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

しかし、各国の女性医師の割合と比較すると日本は圧倒的に低い状況です。妊娠・出産・育児での離職が多いこと、医療現場の労働環境が厳しいこと等、多くの問題点が指摘されています。医療現場では出産・育児による休職が歓迎されず、男性医師を望む声が大きいのが現実のようです。女性医師がキャリアアップを望んでも、妊娠・出産をきっかけに当直の少ない科への転科も多いといいます。

一方、女性医師の割合が高い海外では、男性の育児参加が積極的で、職場の理解もあり、子育てをしながら勤務を継続できるため、女性医師の割合も高くなっていると言えるでしょう。

各国の女性医師の割合(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

各国の女性医師の割合(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

また、診療科別に見ると、皮膚科、眼科、麻酔科、産婦人科、小児科の女性比率が高く、外科、脳神経外科などの診療科では非常に低いことがわかります。女性医師が増えれば、皮膚科、眼科、麻酔科、産婦人科、小児科に殺到することが予想でき、ただでさえ不足している外科医の不足が加速するでしょう。

平成24年 診療科別 医師男女比(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

平成24年 診療科別 医師男女比(出典:平成24年 医師・歯科医師・薬剤師調査(厚生労働省))

これらは不正入試が正当化される理由にはなりません。しかし、こういった現実にも目を向け、労働環境の改善、男性の育児参加の両面から、社会全体で取り組んでいかなければいけない課題です。

医工連携に関連するところでは、文部科学省、経済産業省、厚生労働省が中心となり、人工知能(AI)によるカルテの自動入力や画像診断等を活用するモデル病院を作ることが発表されました。現場でもAIに関連するニーズが多数見られるようになってきました。医師不足を解消する手段としてだけでなく、これまでキャリアアップを望んでも思うように働けなかった女性医師の活躍のためにも、AI医療の実用化に期待したいと思います。

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